エリート外交官と至極の契約結婚【極上悪魔なスパダリシリーズ】
 誰に見られているかわからない。今日の夕食も今朝車の中で彼は『念のため』といったのだ。ここは演技をしなくては。

 月城さんから離れるとき、思いきって彼の頬に唇を寄せた。すると、ふわっと鼻をくすぐる爽やかな香りに落ち着かなくなる。

 彼は極上の笑みを浮かべていた。

「き、着替えてきますね」

 顔が熱くなっていき、頬に手をやりながら更衣室へ向かった。


 今夜、選んだレストランはミシュランにも選ばれた中国料理店。広(カン)東(トン)料理がメインで、中華ベースの創作料理は訪れるお客様にとても人気がある。

「紹興酒を飲もうか」

 ターコイズブルーの布が張られた椅子に腰を下ろし、月城さんはメニューを見るまでもなく口を開いた。

「私が運転しますから飲んでくださいね」

「いや、今日は車を置いてきている」

「そうだったんですね。わかりました。紹興酒は好きなんです」

 コース料理を頼み、少しして紹興酒と前菜が運ばれてきた。

 私たちは小さなグラスを持って乾杯して食べ始める。

 前菜はひと口大にカットされた合鴨や牛などが数種類のソースにより違った味で楽しめ、添えられたクラゲやスライスしたアワビもさっぱりしている。

 ふかひれの姿煮や小籠包、牛肉炒めなど食べ進めるが、それとともに紹興酒につい手が伸びる。

「そんなに飲んで大丈夫か?」

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