エリート外交官と至極の契約結婚【極上悪魔なスパダリシリーズ】
 月城さんの方が三杯ほど多く飲んでいるけれど、酔っている様子はない。私はといえば、飲みすぎている自覚はある。

「んー、あと一杯で」

 ふと彼が私の顔に手を伸ばし、頬に触れる。

「つ、月城さん……」

「尚哉だろ。結婚したんだからお前も月城だ。名前で呼べよ」

 私も月城……。でも、それは書面上のことだから……。彼がそう言うのは演技をしているからだ。

 月城さんの黒い瞳に見つけられ、逸らせずにいると、急に胸が苦しくなった。


 ホテルからタクシーで自宅に戻り、月城さんは私の部屋の前で足を止めた。

「ごちそうさまでした」

 私が支払うはずが、彼がさっさとカードを出してしまった。そこで私もカードを出そうとすると
『俺に恥をかかせるのか? お前に出してもらうつもりはないから』と一笑に付された。

「明日は……私が空港まで運転してお見送りします」

 マレーシアのクアラルンプールに用事があるとかで、午前十時過ぎのフライトだ。

 月城さんがこの家からいなくなると思うと、寂しくなるだろう。

 鼻の奥がツンとしてくる。

「わかった。ありがとう。まだ心配は尽きないが。俺の連絡先はちゃんと登録してあるだろうな?」

「は、はい。してあります。おやすみなさい」

 まだ話していたいけれど、言葉をのみ込み、頭を下げて自室へ入った。

 後ろ手にドアを閉めてその場に佇む。
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