エリート外交官と至極の契約結婚【極上悪魔なスパダリシリーズ】
 私は夫に片想いをしている。

 カリスマ性があって、目上の人には礼儀正しく、月城さんから発せられる言動には始終ドキドキさせられて、あっという間に私の心はすっかり奪われてしまった。

「はぁ……」

 明日、彼はマレーシアへ飛んでから帰国する。もう二度と会えないのだ。

 考えれば考えるほど切なさがどんどん押し寄せてきて、苦しくなって胸に手を置く。

 足取り重くベッドの端にポスンと座り、いつまでもそこから動けなかった。


 月城さんがドバイを離れる日はあっという間にやって来た。

 父とお別れを済ませた月城さんと、朝七時過ぎに自宅を出てドバイ国際空港へ向かう。

 運転は約束通り私がしている。

 助手席の月城さんは窓に腕を置いて頬杖をつき、流れる景色を眺めている様子。

 なにか話しかけようと思うのに、舌が貼りついてしまったみたいに言葉が出てこない。

 刻一刻と月城さんと別れる時間が近づいてくる。

 そう思うと涙腺が緩んできそうで、余計に口を開けなかった。

 三十分後、空港の駐車場に到着し、黒のキャリーケースを引く月城さんとともに出発ロビーへ歩を進める。

 チェックインを済ませた彼は身軽になって、ブースの外にいた私のところへ戻ってくる。

 颯爽と近づいてくる月城さんから視線を逸らした。

 もう会えない苦しい気持ちに襲われて、目頭が熱くなったのだ。
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