エリート外交官と至極の契約結婚【極上悪魔なスパダリシリーズ】
 一瞬、月城さんかと思ったが、白いカンドゥーラの袖が目に入り、ハッとなる。

「ハーキム様がお待ちになっています。どうか騒がずについてきてください」

 この男はハーキム氏の部下のようだ。

 アラビア語で丁寧に言われるが、脚を止まらせてくれずに歩かされる。

「どうして? 彼はあきらめると言っていました」

 恐怖で心臓が嫌な音を立てている。

「それがどうしてもあきらめられなく、あなたとクルージングをしたいと。抵抗するのなら実力行使になります。痛い思いはしたくないでしょう?」

 そう言いつつも私の腕を掴む手は痛いくらいだ。

 逃げなきゃ。

「私には夫がいます。既婚者を船に閉じ込めるなんて犯罪です」

「ハーキム様のような立場ならば、同意の上だったと彼が言えば罪には問われないんですよ」

 絶体絶命だった。

 このまま連れていかれるの?

 ハーキム氏の顔を思い浮かべると、吐き気が込み上げてくる。

 嫌よ! 絶対に!

 駐車場に進まされながら、逃げる機会をうかがっていた。自分の身がどうなろうと、ハーキム氏の好きなようにはさせない。

 自分を鼓舞させるように下唇を噛んだ直後に、私を掴んでいる男の手が何者かによって乱暴にはずされ、男は地面に飛ばされた。

「真佳奈! 大丈夫か!?」
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