エリート外交官と至極の契約結婚【極上悪魔なスパダリシリーズ】
 ハーキム氏が自宅まで来た事実はないが、門を入ればより安心だった。

 玄関から室内へ入ると、父は戻っており、広々としたリビングのソファで本を読んでいた。

 私の姿に父は老眼鏡をはずして、「おかえり」と笑顔になる。

「ただいま」

「車の音がしなかったな」

「うん。ミランダに送ってもらったの」

 父にはまだハーキム氏の件は話していない。余計なことで頭を悩ませたくなかった。

「わざわざ。明日困るだろう? 私の車で送っていこう」

 総領事専用車で送るつもりの父に、私は頭を左右に振る。

「なかなか話ができないから一緒に帰ってきたの。明日迎えにきてくれるから大丈夫よ。手を洗ってくるわ」

 一階に三十畳くらいの広いリビングとそれより半分ほどのスペースの来客用リビング。父の書斎、ダイニングルーム、キッチン、メイド用の部屋がふた部屋。運動ルームと家事ルームなどがあり、二階に私と父のベッドルームとそれぞれにバスルームがある。空いている部屋もふた部屋と、無駄に広い家である。

 裏庭には横五メートル、縦二十メートルのプールがあり、休日には泳いだり、プールサイドで冷たい飲み物を飲みながら読書をしたりしてくつろいだりする。

 メイドが作った料理を食べながら、父が思い出したようにナイフとフォークをお皿の上に置いた。
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