3次元お断りな私の契約結婚
もう嘘はつかない





 真夜中三時過ぎ。私は電気をつけたままリビングで寝てしまっていた。

 昨日だってほとんど寝れていない。疲れもあり、ようやくうとうとしていた頃だった。玄関の開く音がした。

 はっと顔を持ち上げる。時計を見て今が真夜中だと知る。ガタガタとなんだか騒がしい音がして、足音が大きく響きながらこちらへ向かってきた。

 そして勢いよく開いた扉の向こうには、スウェット姿の巧が険しい表情で立っていた。

「……巧」

「杏奈! 無事だったのか!」

 第一声に彼はそう言った。そして私に駆け寄り、はあーと大きく息を吐く。髪も乱れた彼の姿を、私は呆然とみつめていた。

「樹が杏奈になんかしたのかって……心配で」

「ま、まさか! 樹くんは何もしてないよ」

 私が樹くんを庇うと、巧はギロリと私を睨んだ。つい体が強張る。

「なんで樹があんな時間にここにいたんだよ? 俺がいないのに家にまで入れるだなんて」

「それは」

「それに泣いてたって。何があった? なんで俺じゃなくて樹を頼った」

 巧は本気で怒っているようだった。険しい表情がそれを物語っている。

 それなのに。彼を怒らせているというのに、

 今私は胸が愛しさでいっぱいになっている。

 諦めようとした恋心が、やっぱり無理だよとばかりに全身に溢れかえった。

 ああ、もう。

 なんでこんなに好きなんだろ。

「…………杏奈?」

 険しかった巧の顔が驚きに変わった。私の目に涙が浮かんでいたからだった。

 戸惑ったようにオロオロした巧は、いつだったかそうしたように服の袖で私の顔を拭く。

「どうした、なんかあ」

「安西さんに会ったの」

 ピタリと彼は停止する。しかしすぐに顔を歪めた。

「そうだったのか、あの女なんか杏奈にしたのか?! そうなんだな、嫌がらせでも」

「妊娠してるんだって」

 言えなかった言葉を出した。同時に巧は目を見開く。

「巧の子を妊娠してるから、離婚してほしいって言われた。今六ヶ月なんだって……だから、私、巧と離婚しなきゃいけないんだって思って」

「にん、しん?」

「一人悩んでて。安西さんと会った時偶然にも樹くんと一緒だったの。だから彼は知ってて私を心配してくれただけ」

 巧はわけがわからない、というように口を半開きにしたまま動かなかった。私の頬を涙が伝う。それをそのままに、巧の顔をしっかり見上げた。

 もう逃げない。そう心に決めて。
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