3次元お断りな私の契約結婚
「子供がいるっていうなら離婚しなきゃって思ってたけど、やっぱり私嫌だって思ったの。私はその、安西さんと違ってちゃんと巧とそんな階段も登れてないけど……それでも、これからちゃんと夫婦になりたい。巧と離れたくないって思ってる」

「……杏奈」

「だから、お願い……」

 そう呟いたと同時に、私は意を決して巧に思い切り抱きついた。もはや突進だったので、巧は体のバランスを崩して後ろに倒れそうになる。それでも必死に持ち堪え、なんとかバランスを元に戻した。

 その広い胸にしがみついている私をしばらくそのままにし、巧は何も言わなかった。

「杏奈」

 しばらくたってそう低い声がした。びくっと反応し、恐る恐る顔を上げた。今巧が果たしてどんな顔をしているのか、私には怖かった。

 その表情で、彼からの返事がわかるはずだから。

 目が合った巧は、まっすぐ私の目を見ていた。その目からは逃げたいとか、ごめんだとか、そういう色は見えない気がした。

「ごめん、気づかなくて」

「ううん……」

「全然知らなくて。今思えば杏奈の様子がちょっと変だったのに」

「言えなかった私が悪いの」

「いいか。はっきり言う。

 安西唯の腹の中にいる子の父親は俺じゃない」

 巧はほんとうにはっきり言った。一言一言言い聞かせるような発音で。

 思っても見ないセリフにポカン、とする。だがしかし、すぐに冷静になり、彼の無責任な言葉に苛立ちをおぼえた。

「あのね、避妊に100%はな」

「だって何もしてねえもん」

 
……なんだと?


 脳内が停止した。まさかの返答だった、私の脳内シミュレーションの中でこの展開はまるでない。あれか、シークレットエンドか?

 何もしてない、だと??

 私は口を開けた間抜け面で巧を見つめた。彼はふうとため息をつきながら言う。

「とんでもねえ女だったなあいつやっぱり」

「え? いやでも、流石にそれは……だって本当にお腹大きかったし……あれ?」

 巧は無言でダイニングに腰掛ける。私もその隣に慌てて座った。

「結構強引な見合いのあと、こっちは断ってんのにもう一度だけ会えってしつこくて。仕方なしに行ったのがホテルにあるバーで」

(バー……行ったことない……本当にそんなおしゃれな場所存在するんだ……)

「なんか一人で飲みまくってベロベロに酔いやがって」

(すんごく嫌そうに喋るなこの人……)

「家まで送るって言ったら部屋とってあるからそこまで送れってしつこくて。安西グループはちょっと邪険に扱えない相手だからしょうがなく送ったら、入った瞬間俺の服を脱がせてきて」

「ブフォ!」

「吐き出すな、汚い」

「そそ、そんな展開ある!? 三次元にはそんな凄いことあるんだ!?」

「三次元?」

「いえ、なんでもないです」
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