3次元お断りな私の契約結婚
その後の二人を少しだけ


「だあああ! 出席者が多いいいい!」

 私は悲鳴を上げて机の上に突っ伏した。

 向かいに座る巧が小さく笑う。笑い事じゃない、全然笑い事じゃないんだよ。だってこの状況、ほぼ藤ヶ谷家のせいじゃん。

 私は目の前を睨んだ。

「なんでこんなに多いの」

「親戚も多いしあとは家柄上呼ばないわけにはいかないオッサンとか」

「恐らく偉い人だろうにおっさん呼ばわり」

「悪かったな、これでも結構削った方なんだけど」

 巧と今確認しているのは披露宴の招待客リストだった。




 始まりは契約結婚だったので、結婚式なんて挙げる予定はまるでなかった。でもその後、結局本当に夫婦となった私たちは、親に(特に巧のご両親に)言われてようやく結婚式について考え出していた。正直私はしなくていいと思ってたのに、藤ヶ谷家としてはやはりしないわけにもいかないらしい。

 それはしょうがないと思っていた。大企業藤ヶ谷グループの副社長の結婚式だもん、そりゃやらなきゃいけないいろんな事情があるんだろう。藤ヶ谷の名前を名乗っている私も覚悟しなきゃいけない。

 ばあちゃんが亡くなってしばらく経つし、本格的に式について考え出していた。ところがこの作業、想像以上に大変! まず私は親戚も少ないし友達だってそんなにいないのに、巧側の招待客が多すぎ問題!!

「杏奈お色直し何回したいんだ」

「着替えるの面倒だからしなくていい」

「お前本当に女かよ」

 呆れたように巧が言ってくる。だって、これだけの人数に見られる中「お色直しされた新婦さまです!」って注目浴びるのちょっとやだよ。

「巧すれば」

「ある意味すごい話題になるだろうなその結婚式」

「多分式場でも伝説になると思う」

「お、ウェディングケーキの上って色々好きなように装飾できるんだな。オーウェンでも描いてもらうか」

「な! 馬鹿じゃないの!」

「はは、そっかオタクは隠してるんだっけ」

「オーウェンにナイフ入れることになるじゃん! そんなの無理無理!!」

「そっちか……」

 苦々しい顔でパンフレットを捲る巧は私より楽しそうにしてる気がする。こういう結婚式の準備って男は非協力的って聞くけど、どちらかといえばちゃんと内容覚えてしっかり考えてるの巧なんだなあ……。

 項垂れている私にコーヒーを淹れてくると、巧は隣に腰掛ける。自分も飲みながら言った。

「悪いな、付き合わせて。俺もそんな豪勢にしなくていいって言ったんだけど」

「んーまあしょうがないよ……」

「式終わったら休み使ってゆっくり旅行行けるから。それまで頑張れ」

 目の前に置かれたコーヒーを手に取る。そっとそれを啜った。そうだよね、式が終わったらようやく二人でゆっくり旅行行けるんだ。それはやっぱりすごく楽しみなんだよね。

 仕事もしっかり休みを取ったし、思い切り羽を伸ばして……

「ハネムーンベイビー狙うか」

「ぶふぉ!!」

「汚い。パンフレットにコーヒー飛んだぞ、杏奈吐き出し癖あるよな」

 変なとこにコーヒーが入ってしまいむせまくる。巧は私の背中をさすりながら、もう片手でパンフレットを拭いていた。

 だって、急にこの男が変なこと言い出すから!

 そう非難してやろうと隣の巧を見上げると、彼はキョトン、としてこちらをみていた。冗談とか言った覚えありません、みたいな顔。

「え、杏奈子供いらない派だった?」

「…………」

 私は黙って視線を逸らした。

 そっか、そうだよ。別に変なことってわけじゃない。本当に巧と結婚したんだから、そういう未来の話はして行くべきなんだ。

 でも今まで三次元に生きてこなかった私には非常にハードルが高いお話といいますか……。

「あんまり想像したことないけど……いらない、わけじゃ、ない」

 小声で返す。隣で巧が小さな声で笑ったのが分かった。

 本当に全然想像したことなかった。二次元しか愛せなくて結婚なんかするつもりなかったのに、子供だなんて。自分には縁のない話かと思ってたんだもん。

 彼は私の顔を覗き込む。

「まあ、別に急いでないからゆっくりでいいけど」

「で、でも思えば藤ヶ谷の跡取りを……」

「んな固いこと気にしなくていい。会社のことなんか二の次だよ、いつまでもうちの会社が続くかもわかんないし。これは俺ら二人の問題」

 そう言った巧は私の頬にキスを降らせた。なんだか未だにこういう時どうしていいかわからない。とりあえず会釈しておいた。笑われた。

 でもまあ、そういう未来をゆっくり考えるのも楽しいかもしれない。この男性格悪いけどちゃんとしてるから、意外といいお父さんになるのかも。夫婦とはまた違った形の家族って、なんだかむず痒いけど面白そう、……だなんて。

 今までの自分では考えられないよほんと。人って変わるもんだなぁ。

「もしそうなったら専用の栄養士でも雇うか」

「……え!」

「栄養は大事だろ。太りすぎてもいけないっていうし。食材も色々気をつけないといけないんだから。家事も代行させればいい。あ、でも動かなすぎも良くないらしいからな、しっかり運動スケジュールも管理を……」

「…………」

 まだ全然想像つかないけど、

 なんか妊娠したら巧、うるさそうだなあ……

 なんて思ってしまったのは口に出さないでおく。






 
< 118 / 118 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:168

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

完璧からはほど遠い

総文字数/137,538

恋愛(オフィスラブ)156ページ

表紙を見る
日給10万の結婚

総文字数/180,307

恋愛(純愛)169ページ

表紙を見る
あなたに嫌われたいんです

総文字数/124,143

恋愛(純愛)103ページ

表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop