3次元お断りな私の契約結婚
「仕事はどうだった」
「あー普段いばり散らかしてる社長たちもやけに私の顔いろうかがってるよ、非常に仕事やりやすくなった」
「杏奈の会社との取引に何かあれば困るのはそっちだからな。いくらでも立場利用してやれ、お前のところの社長ちょっと横暴すぎる」
「え、そう見える!?」
私は隣を勢いよく振り返る。まさかあの藤ヶ谷グループからそんな風に見られていたなんて!
巧はスルメを齧りながら言う。ところでイケメンとスルメってどうもアンバランスなのはなぜ。
「業界でも有名だろ、やり方を選ばないってな。上には媚び諂って部下には厳しいし」
「そうそうそれなの! ほんとね、気分屋だしあれどうにかしてほしい」
「あんなやつのそばでよく長く働いてるもんだ」
「もっと褒めて、どんどん褒めて!」
私が拳を握りしめて力強く言うと、ふ、と彼は笑った。笑うとできる目尻の皺が、あの自分勝手な男とは思えないほど柔らかい印象になる。前も思ったけど、笑うと結構可愛らしくなるんだなあ。
と、いうか。
あんな性格の男と同居だなんて大丈夫かってかなり心配していたけれど、これは私の予想とは反して思ったより苦痛ではない。むしろ、一緒にいて結構楽な方だ。なぜだろう、私もだいぶ性格に難あるのかな? 似たもの同士ってこと?
決して優しい人だとかいい人だとかではないのに、話しやすい。知り合って間もない人だとは思えないほどに。
じっと隣の男を見た。また一滴髪の先から雫が落ちたのを何となく目で追う。外見だけは文句ないのになあ。
「杏奈それ何本目だよ、飲み過ぎ」
「え? まだ時間早いから大丈夫だよ」
「もう終わっておけ、中年太りまっしぐらだから」
「あー藤ヶ谷巧の奥さんがデブじゃだめか」
「そういうこと。俺の妻ならいつでも身だしなみは整えておけ。どこで誰がみてるかわからない、普段通りの杏奈なら大丈夫だと思って契約を持ちかけたんだから」
「へいへい」
やっぱり性格に難アリの男だ。私はむくれて最後のスルメを頬張った。言われなくても、これでも外見は気遣ってますよ。
少し経って巧も食事を終えて私の分のお皿も片付けてくれた。先に帰ったのに私の不動ぶりよ。レンジでチンしかしてない。
まあいっかあと思いながらぼうっとテレビを眺めていた。よく見るバラエティ番組だ。
食事も終わったので、巧はてっきり自室へ戻っていくのかと思っていた。ところが、お皿も丁寧に洗い仕舞い終えたあと、彼は無言でまた私の隣に腰掛けた。そして長い足を組んだまま背もたれにもたれてテレビを見始めた。
……ううん意外、テレビとか見るんだ、藤ヶ谷巧。しかもこんな馬鹿っぽいバラエティ。
まあ彼の家なのだからどこで何をしようが自由だ。私たちはそのまま無言でくつろぎながらテレビを眺めた。
午後九時もすぎ、私はようやく入浴を済ませた。
高級マンションのお風呂は広いし綺麗、ジャグジー付き。こんなのテレビの中だけだと思っていた。ところでジャグジーってぶくぶくさせて何が楽しいのかちっとも分かんない。
それでも広々としたお風呂はテンションが上がる。化粧を落としパジャマに着替える。自然と鼻歌が漏れてしまうほど、豪華な浴室は女の気分を上げる。
そのまま肌の手入れもしっかり終えると、肩にバスタオルをかけたままリビングへと戻っていく。お風呂上がりに冷えた水を飲もうと思ったのだ。
ガチャリと扉を開けると、そこのソファに巧はまだいた。気だるそうに腰掛けテレビを眺めている。私が入ってきたことに気づきこちらに視線が流れる。ぱちっと目があった瞬間、彼の目がまん丸に見開かれた。
「あーここのお風呂広くって綺麗で気分いいねー。でもあれ掃除大変だね」
「……杏奈」
「あ、ねえ入浴剤って入れないタイプ? 私入れたいんだけど適当に買ってきといていい?」
「お前なんだその格好は」
冷蔵庫に向かい水を取り出した時そんなことを言われて振り返る。巧は呆然といった様子で私を上から下まで眺めている。
私はキョトンとして答えた。
「え? パジャマ」
「…………うそだろ……
何でそんなダサいの?」
彼は馬鹿にしている、と言う感じではなかった。ただ本当に素直に疑問が口に出ました、みたいな顔で私を憐れんだ顔で見ている。
私は自分のきている服を見た。
高校の頃体育の授業で履いていたハーフパンツに、大きくおにぎりのイラストが書かれたTシャツ。ショートケーキ柄の靴下。
別段普通の部屋着なのだが。
「え、ダサい?」
「おま、いくつなんだよ……それ学生時代のジャージ?」
「物持ちいいよねー」
「そうじゃない、おにぎりのTシャツってよく探し出したな、初めて見た」
「基本美味しそうな洋服を部屋着に選んじゃうの。靴下も可愛くない?」
私は足を上げて可愛い靴下をアピールした。冷えは大敵だ、室内でも寝る時以外は靴下かスリッパを履きたいタイプなのだ。
巧はしばらく無言で私を見つめていた。そして間があったあと、呆れ返りましたというように大きなため息をつかれる。
「さっきの部屋着はどうした……あれでいろよ……」
「あー友達に誕プレでもらったやつね。寝心地はこっちの方が好きなんだよね」
冷えた水をようやく喉に流し込む。まあ、ちょっと奇抜な自覚はあるけどこれで外には出ないもの、別にいいではないか。寝るときは寝心地重視なのだ。
巧は片手で顔を覆った。そんな嘆くほどダサいか?
先ほどまで裸だった巧は、私がお風呂に入っている間にいつのまにか服をきていた。至ってシンプルな黒いスウェットだ。普通すぎてつまらない。
「あー普段いばり散らかしてる社長たちもやけに私の顔いろうかがってるよ、非常に仕事やりやすくなった」
「杏奈の会社との取引に何かあれば困るのはそっちだからな。いくらでも立場利用してやれ、お前のところの社長ちょっと横暴すぎる」
「え、そう見える!?」
私は隣を勢いよく振り返る。まさかあの藤ヶ谷グループからそんな風に見られていたなんて!
巧はスルメを齧りながら言う。ところでイケメンとスルメってどうもアンバランスなのはなぜ。
「業界でも有名だろ、やり方を選ばないってな。上には媚び諂って部下には厳しいし」
「そうそうそれなの! ほんとね、気分屋だしあれどうにかしてほしい」
「あんなやつのそばでよく長く働いてるもんだ」
「もっと褒めて、どんどん褒めて!」
私が拳を握りしめて力強く言うと、ふ、と彼は笑った。笑うとできる目尻の皺が、あの自分勝手な男とは思えないほど柔らかい印象になる。前も思ったけど、笑うと結構可愛らしくなるんだなあ。
と、いうか。
あんな性格の男と同居だなんて大丈夫かってかなり心配していたけれど、これは私の予想とは反して思ったより苦痛ではない。むしろ、一緒にいて結構楽な方だ。なぜだろう、私もだいぶ性格に難あるのかな? 似たもの同士ってこと?
決して優しい人だとかいい人だとかではないのに、話しやすい。知り合って間もない人だとは思えないほどに。
じっと隣の男を見た。また一滴髪の先から雫が落ちたのを何となく目で追う。外見だけは文句ないのになあ。
「杏奈それ何本目だよ、飲み過ぎ」
「え? まだ時間早いから大丈夫だよ」
「もう終わっておけ、中年太りまっしぐらだから」
「あー藤ヶ谷巧の奥さんがデブじゃだめか」
「そういうこと。俺の妻ならいつでも身だしなみは整えておけ。どこで誰がみてるかわからない、普段通りの杏奈なら大丈夫だと思って契約を持ちかけたんだから」
「へいへい」
やっぱり性格に難アリの男だ。私はむくれて最後のスルメを頬張った。言われなくても、これでも外見は気遣ってますよ。
少し経って巧も食事を終えて私の分のお皿も片付けてくれた。先に帰ったのに私の不動ぶりよ。レンジでチンしかしてない。
まあいっかあと思いながらぼうっとテレビを眺めていた。よく見るバラエティ番組だ。
食事も終わったので、巧はてっきり自室へ戻っていくのかと思っていた。ところが、お皿も丁寧に洗い仕舞い終えたあと、彼は無言でまた私の隣に腰掛けた。そして長い足を組んだまま背もたれにもたれてテレビを見始めた。
……ううん意外、テレビとか見るんだ、藤ヶ谷巧。しかもこんな馬鹿っぽいバラエティ。
まあ彼の家なのだからどこで何をしようが自由だ。私たちはそのまま無言でくつろぎながらテレビを眺めた。
午後九時もすぎ、私はようやく入浴を済ませた。
高級マンションのお風呂は広いし綺麗、ジャグジー付き。こんなのテレビの中だけだと思っていた。ところでジャグジーってぶくぶくさせて何が楽しいのかちっとも分かんない。
それでも広々としたお風呂はテンションが上がる。化粧を落としパジャマに着替える。自然と鼻歌が漏れてしまうほど、豪華な浴室は女の気分を上げる。
そのまま肌の手入れもしっかり終えると、肩にバスタオルをかけたままリビングへと戻っていく。お風呂上がりに冷えた水を飲もうと思ったのだ。
ガチャリと扉を開けると、そこのソファに巧はまだいた。気だるそうに腰掛けテレビを眺めている。私が入ってきたことに気づきこちらに視線が流れる。ぱちっと目があった瞬間、彼の目がまん丸に見開かれた。
「あーここのお風呂広くって綺麗で気分いいねー。でもあれ掃除大変だね」
「……杏奈」
「あ、ねえ入浴剤って入れないタイプ? 私入れたいんだけど適当に買ってきといていい?」
「お前なんだその格好は」
冷蔵庫に向かい水を取り出した時そんなことを言われて振り返る。巧は呆然といった様子で私を上から下まで眺めている。
私はキョトンとして答えた。
「え? パジャマ」
「…………うそだろ……
何でそんなダサいの?」
彼は馬鹿にしている、と言う感じではなかった。ただ本当に素直に疑問が口に出ました、みたいな顔で私を憐れんだ顔で見ている。
私は自分のきている服を見た。
高校の頃体育の授業で履いていたハーフパンツに、大きくおにぎりのイラストが書かれたTシャツ。ショートケーキ柄の靴下。
別段普通の部屋着なのだが。
「え、ダサい?」
「おま、いくつなんだよ……それ学生時代のジャージ?」
「物持ちいいよねー」
「そうじゃない、おにぎりのTシャツってよく探し出したな、初めて見た」
「基本美味しそうな洋服を部屋着に選んじゃうの。靴下も可愛くない?」
私は足を上げて可愛い靴下をアピールした。冷えは大敵だ、室内でも寝る時以外は靴下かスリッパを履きたいタイプなのだ。
巧はしばらく無言で私を見つめていた。そして間があったあと、呆れ返りましたというように大きなため息をつかれる。
「さっきの部屋着はどうした……あれでいろよ……」
「あー友達に誕プレでもらったやつね。寝心地はこっちの方が好きなんだよね」
冷えた水をようやく喉に流し込む。まあ、ちょっと奇抜な自覚はあるけどこれで外には出ないもの、別にいいではないか。寝るときは寝心地重視なのだ。
巧は片手で顔を覆った。そんな嘆くほどダサいか?
先ほどまで裸だった巧は、私がお風呂に入っている間にいつのまにか服をきていた。至ってシンプルな黒いスウェットだ。普通すぎてつまらない。