3次元お断りな私の契約結婚
「いないんだ。そんなの、最初から存在しない」
「……え、ええ?」
「でまかせだったんだ」
まさかの言葉に大混乱が生じる。あれだって、その人と付き合い続けるために契約結婚の相手を探していたのに……?
私はオロオロとしながら聞いた。
「え、でも樹くんが忘れられない相手がいるって言ってたじゃない、シングルマザーじゃないの?」
「…………それは、その」
「何でそんな嘘ついたの?」
「……この流れで普通感づくだろ……」
はあと大きなため息をついて彼は項垂れた。私は首を傾げてなお追求する。
「え、全然わかんないよ、ねえ分かるように説明してよ」
私は彼の服の袖を握って引っ張った。歯切れの悪い巧にやや苛立っていると、彼は突然顔を上げた。その顔面は真っ赤になっていて驚きで固まった。
巧は吹っ切れたように大きな声で言う。
「お前だよ!!」
「…………?」
「別に馬鹿みたいにずっと想ってたわけじゃない。普通に恋愛もしてきたし女とも付き合った。でもどうしても、あの手紙を捨てた相手の子は何してるかなって頭の片隅に残ってた」
「…………?????」
「そしたら偶然仕事で杏奈を見つけた。普通に声をかけようとしたら、杏奈が男は恋愛対象じゃないって噂を聞いたから。だから正攻法じゃ駄目だと思って」
「は、はあ…………」
巧は強く頭を掻いた。黒髪が揺れて飛び跳ねる。
「……形だけでも、結婚すれば少なくとも繋がりはできると思った」
巧の口から漏れてくる言葉はあまりに難解すぎた。いや、決して小難しい単語を使ってるわけでもない。ただ内容が信じがたくて、想像をずっと超えていてもう私の脳では処理が追いつかないのだ。
もはやフリーズしている私の顔を彼が困ったようにみてきた。目が合った瞬間、胸が痛いほどに鳴り響いた。
「それらしい理由をつけて杏奈に契約を持ちかけた。あんなすぐ承諾されるとは思ってなかったけど」
「……」
「心がわりされないようにマンションも即決して外堀を固めた。そういうのは俺得意だから」
「ああ、確かにめちゃくちゃ早かったね色々」
「正直言うと、男に興味ないって言っても一緒に暮らしてみればなんとかなるかもしれないと邪な気持ちはあった。でもお前下着見られても平気だわ俺の裸も感心しながらガン見だわで脈なしなのはよくわかった」
「ま、って、じゃあ、え? 巧、私のことが好きなの?」
どストレートに聞くと、巧はぎょっとして目を見開き、困り果てたというように大きく天井を仰いだ。大袈裟なほどの振りだった。
「おま、それさ、ストレートに聞くかな……」
そう呟いた巧の耳は真っ赤だった。
ようやく彼のいう話の内容を理解し出せていた。
つまりは巧はずっと前から私を知っていてくれた。他に好きな人がいるなんてのも嘘で、大昔に渡した手紙のことをずっと覚えていてくれてた。
それはまさに晴天の霹靂。目の前に雷がおっこちてきたみたいな衝撃。
ずっと私になんて興味がないと思っていた巧がまさか。
理解してきた途端、カッと顔が熱くなって胸が苦しくなった。未だかつて感じたことのない恥ずかしさと嬉しさと困惑が混ざって自分がどうにかなってしまいそう。あなたを好きになったのは無謀なんだって思い込んでたんだから。凄く辛かったんだなら。
だって、ねえ。ストレートに聞かせてよ。
「……そうだよ。俺はずっとそうだったんだよ」
苦しそうに小声で言った彼が、酷く愛おしい。
巧はデスクの上のクリアファイルをすぐ下の引き出しに仕舞い込んだ。未だ赤い顔を落ち着かせるように息を吐いて言う。
「……ごめん、引いたろ。いつか言うべきかなと思ってたけど、引かれるの分かりきってたから。バレないように色々気遣ってたつもりが」
「巧」
「無理だって思ったら言えばいい。どっか違うマンションでも買って杏奈はそこに住めばいい」
「巧って」
「この前も、キスしてごめん。カッとなった。もう二度としないから」
「たーくーみってば!」
一人でペラペラ話す男の背中を思い切り叩いた。バシッと大きな音が響く。いてっと巧は反応してこちらを振り返った。
私は気まずそうにしている巧の顔を見て笑う。いつも自信家で隙のない男のそんな顔が非常に可愛いと思った私はもう引き返せない。
この人意外と不器用なんだな。
「自分ばっかり話して私の話は聞かないの? こう言う時王子様たちはもっと落ち着いて振る舞うんだよ!」
「王子……?」
「普段自信満々のくせに、何で大事な時には自信無くすの? 私が巧を好きだってどうして1ミリも思わないの?」
私のセリフを聞いて、彼はぴたりと停止した。
こんなはずじゃなかったのになあ。私、二次元専門だったんですけど。しかもオーウェンから程遠い腹黒男。
でもなってしまったものはしょうがない。
「……え、ええ?」
「でまかせだったんだ」
まさかの言葉に大混乱が生じる。あれだって、その人と付き合い続けるために契約結婚の相手を探していたのに……?
私はオロオロとしながら聞いた。
「え、でも樹くんが忘れられない相手がいるって言ってたじゃない、シングルマザーじゃないの?」
「…………それは、その」
「何でそんな嘘ついたの?」
「……この流れで普通感づくだろ……」
はあと大きなため息をついて彼は項垂れた。私は首を傾げてなお追求する。
「え、全然わかんないよ、ねえ分かるように説明してよ」
私は彼の服の袖を握って引っ張った。歯切れの悪い巧にやや苛立っていると、彼は突然顔を上げた。その顔面は真っ赤になっていて驚きで固まった。
巧は吹っ切れたように大きな声で言う。
「お前だよ!!」
「…………?」
「別に馬鹿みたいにずっと想ってたわけじゃない。普通に恋愛もしてきたし女とも付き合った。でもどうしても、あの手紙を捨てた相手の子は何してるかなって頭の片隅に残ってた」
「…………?????」
「そしたら偶然仕事で杏奈を見つけた。普通に声をかけようとしたら、杏奈が男は恋愛対象じゃないって噂を聞いたから。だから正攻法じゃ駄目だと思って」
「は、はあ…………」
巧は強く頭を掻いた。黒髪が揺れて飛び跳ねる。
「……形だけでも、結婚すれば少なくとも繋がりはできると思った」
巧の口から漏れてくる言葉はあまりに難解すぎた。いや、決して小難しい単語を使ってるわけでもない。ただ内容が信じがたくて、想像をずっと超えていてもう私の脳では処理が追いつかないのだ。
もはやフリーズしている私の顔を彼が困ったようにみてきた。目が合った瞬間、胸が痛いほどに鳴り響いた。
「それらしい理由をつけて杏奈に契約を持ちかけた。あんなすぐ承諾されるとは思ってなかったけど」
「……」
「心がわりされないようにマンションも即決して外堀を固めた。そういうのは俺得意だから」
「ああ、確かにめちゃくちゃ早かったね色々」
「正直言うと、男に興味ないって言っても一緒に暮らしてみればなんとかなるかもしれないと邪な気持ちはあった。でもお前下着見られても平気だわ俺の裸も感心しながらガン見だわで脈なしなのはよくわかった」
「ま、って、じゃあ、え? 巧、私のことが好きなの?」
どストレートに聞くと、巧はぎょっとして目を見開き、困り果てたというように大きく天井を仰いだ。大袈裟なほどの振りだった。
「おま、それさ、ストレートに聞くかな……」
そう呟いた巧の耳は真っ赤だった。
ようやく彼のいう話の内容を理解し出せていた。
つまりは巧はずっと前から私を知っていてくれた。他に好きな人がいるなんてのも嘘で、大昔に渡した手紙のことをずっと覚えていてくれてた。
それはまさに晴天の霹靂。目の前に雷がおっこちてきたみたいな衝撃。
ずっと私になんて興味がないと思っていた巧がまさか。
理解してきた途端、カッと顔が熱くなって胸が苦しくなった。未だかつて感じたことのない恥ずかしさと嬉しさと困惑が混ざって自分がどうにかなってしまいそう。あなたを好きになったのは無謀なんだって思い込んでたんだから。凄く辛かったんだなら。
だって、ねえ。ストレートに聞かせてよ。
「……そうだよ。俺はずっとそうだったんだよ」
苦しそうに小声で言った彼が、酷く愛おしい。
巧はデスクの上のクリアファイルをすぐ下の引き出しに仕舞い込んだ。未だ赤い顔を落ち着かせるように息を吐いて言う。
「……ごめん、引いたろ。いつか言うべきかなと思ってたけど、引かれるの分かりきってたから。バレないように色々気遣ってたつもりが」
「巧」
「無理だって思ったら言えばいい。どっか違うマンションでも買って杏奈はそこに住めばいい」
「巧って」
「この前も、キスしてごめん。カッとなった。もう二度としないから」
「たーくーみってば!」
一人でペラペラ話す男の背中を思い切り叩いた。バシッと大きな音が響く。いてっと巧は反応してこちらを振り返った。
私は気まずそうにしている巧の顔を見て笑う。いつも自信家で隙のない男のそんな顔が非常に可愛いと思った私はもう引き返せない。
この人意外と不器用なんだな。
「自分ばっかり話して私の話は聞かないの? こう言う時王子様たちはもっと落ち着いて振る舞うんだよ!」
「王子……?」
「普段自信満々のくせに、何で大事な時には自信無くすの? 私が巧を好きだってどうして1ミリも思わないの?」
私のセリフを聞いて、彼はぴたりと停止した。
こんなはずじゃなかったのになあ。私、二次元専門だったんですけど。しかもオーウェンから程遠い腹黒男。
でもなってしまったものはしょうがない。