3次元お断りな私の契約結婚
はじめての経験によりパニック
祝・高杉(藤ヶ谷)杏奈、二十七にして初の彼氏ができる
「……ってそうじゃない」
私は冷静にツッコんだ。
ベッドに横になり布団を被ったまま寝返りを打つ。部屋のカーテンからは朝の光が漏れていた。枕元の携帯を覗くともう八時を過ぎていた。
大きく伸びをして息を吐く。休日の朝だと言うのに、一時間ほど前から目が覚めていた。それでも中々リビングに起きていく気になれず温かな布団の中でゴロゴロしていたのだ。
初の彼氏ができる。その相手は結婚相手だ。
……意味わからないわ、文章無茶苦茶か。
巧と交際を始めましょうとなったのがもう数日前。その後私はホテルに置きっぱなしにしていた荷物をまとめて帰ったり、巧は事故の後処理や仕事だったりと忙しい日を過ごした。そしていつものように朝を迎え、お互い仕事に出かける、と。
元々平日はあまり顔を合わせることはなかった。藤ヶ谷副社長の巧は特に仕事が忙しく、帰ってくるのは夜遅い。帰ってきて食事をとってお風呂に入るともう就寝時間、ってことはよくある。
だから二人でゆっくり過ごしていない。付き合いましょうとなったと言っても、今までとまるで変わらない日々を送っていたのだ。
「……はあ」
訪れた今日は土曜。もちろん私も巧も仕事は休みなのでようやく話す時間もできたと言うわけだ。
が。
「色々ぶっ飛んでるんだよ〜……私何すりゃいいのよ〜……」
顔を両手で覆って嘆いた。
恥ずかしいことに三次元はまるで興味なかった私にとって人生初彼氏となる。それはいい、いやあんまりよくないけど。
何より私と巧の関係がぶっ飛んでいることが問題なのだ。
彼氏どころか戸籍上は夫。一緒にも暮らしている。すっぴんだっておにぎりのTシャツだってズボラなところだってとっくに見られているところからスタートする交際なんてある??
こんな形の関係に、私は酷く動揺していた。初めての彼氏がこんな形だなんて。
嘆いていてもしょうがないのでとりあえずベッドから起き上がる。カーテンを開けると清々しいほどの青空が広がっていた。
ゲームの世界じゃ対象相手と結ばれておしまいだ。その後の生活なんて描かれていない。デートのシーンだって普通付き合う前に体験するもので、彼氏になったあとのことなんか知らない。
あまりに酷い。自分の恋愛についての知識が。
はあとため息をつきながらとりあえず部屋から出て洗面所に向かう。歯磨きと洗顔を終わらせ化粧水を塗っていると、これまたどうでもいい疑問が浮かび上がってくる。
今までは休日なんて出かける予定なければすっぴんだった。でも流石にメイクくらいすべき?
でもそれって「お、いつもすっぴんの癖に俺を意識して朝からメイク頑張ったのか」とか思われそうでなんか癪じゃない? あの男絶対そうやって思いそう。
じゃあ服は? 部屋着じゃだめ?
わ・か・ら・ん!!!
パニックに陥ったところでもう全てを放棄した。私はいつも通りすっぴんと部屋着でリビングへと向かって行ったのだ。