3次元お断りな私の契約結婚
あ、もうこれ引き下がれないやつだ。今更無かったことになんかできない。
昼間の早まった決断に自分を殴りたくなった。なぜせめて『考える時間をください』ぐらいにしておかなかったんだ、あの時はおばあちゃんの笑顔が脳裏によぎってつい同意してしまったんだ。
頭を抱えた。
「もし断ったら社会的に抹消されそうだ……」
相手はうちの会社にとっても逆らえない藤ヶ谷グループ。
「オーウェン……これは逃げられないよ」
目の前に貼られたポスターを見て半泣きで囁いた。金髪の彼はただいつもの優しい笑顔で私を見ている。
とんでもないことになってしまった。もう相手の家族にご挨拶とは。……いや、もうも何もない、私たちに恋人期間なんてないんだから。
「仕方ない、こうなったら割り切って高級マンションでルームシェア、するしかない」
このためにマンションまで購入してもらったんだ、私もできる限りのことはしよう。とりあえずは、ご両親に気に入っていただけること。ここで結婚反対されてはマンションが無駄になる。
「て、ゆうか、私も親に言わなきゃ」
ついこの間まで「結婚の予定? ナイナイ」と両親に即答してガックリさせていた私が突然結婚だなんて言い出したら、二人とも驚きで失神するかもしれない。
そもそもどうやって藤ヶ谷さんを紹介すればいいんだ? どこで知り合ったんだとか、付き合ってどれくらいだとか絶対色々聞かれるに違いない。
困った。やっぱり安易に契約を決めては行けなかった。
携帯を片手に戸惑っていると、突如それが鳴り響いた。画面を見ると、今度は彼から電話が来ていた。
メッセージに電話と忙しないな……。行動力があると褒めればいいんだろうか。
私は少しコール音を聞いてから、それに出る。
「はい、もしもし」
『高杉さん、私です。先ほどお送りしたもの読まれましたか』
落ち着きのある、凛とした声が聞こえる。仕事が出来る男とは、その話し方一つにも表れると私は思っている。その声からは自信を感じ、人を魅了する声をしている。
「え、ええ……あの、マンションとか驚いてるんですが」
『あなたにも相談しようとは思ったんですが、気に入らなければまた他に買えばいいかと思いまして。場所はあなたが通勤しやすいところを選んだつもりですが』
他に買えばいい!?? 藤ヶ谷グループって、想像以上の金持ち!!
眩暈を覚えながらもなんとか食いしばる。
「い、いえ……勿体ないくらいです」
『それで15日の予定はどうでしょうか。両親がすぐにでもと言ってまして』
(マジで逃れられないわ……)
『まさか今更怖気付いていませんよね?』
「は、はい!! まさか!」
そのまさかなのだけれど、悟られてはいけないと思った。ここまで来たら引き下がれない。自分で下した決断の責任はとらねば。私は自分を戒める。携帯を耳に当てたまま背筋を伸ばした。
『よかった。高杉さんのご両親にもご挨拶に伺いますので予定を決めておいてください』
「はい……」
『ボロが出るといけないので色々設定を考えましょう』
藤ヶ谷さんの用意周到な設定を、その後延々と告げられた。
・付き合って一年
・キッカケは仕事で会った後藤ヶ谷さんから誘って食事をとった
・仕事に支障が出たりするといけないので周りにはずっと秘密にしていた
「はあ……わかりました」
『あとは何か聞かれたら私が答えますから適当に合わせてください。仕事は続けられますか?』
「はい」
即答した。離婚した後仕事もなしでは今後に困ってしまう。仕事は今のまま続けていくのが妥当だ。
『分かりました。両親は恐らく退職をすすめて来ると思いますが上手く説得します。
……それで、恋人同士ということで名前も呼ばせて頂きます、いいですね杏奈』
突如呼ばれた名前に、一瞬どきりとした。男性から下の名前で呼ばれる事なんてない。オーウェンは私の名前を呼ぶことはないのだ。
『あなたも私を適当に親しみやすい呼び方をしてください。では15日の場所や時刻はまた連絡します。あなたもご両親に説明しておいてくださいね』
有無を言わさない威圧感。これが、あの藤ヶ谷グループ副社長の力なのか……。
私はもう素直にハイ、と返事をするしかなかった。
ちなみにその後母に電話し、結婚したいことと、相手があの藤ヶ谷グループの副社長であることを告げると、変な奇声をあげて卒倒していた。ああ母よ。
昼間の早まった決断に自分を殴りたくなった。なぜせめて『考える時間をください』ぐらいにしておかなかったんだ、あの時はおばあちゃんの笑顔が脳裏によぎってつい同意してしまったんだ。
頭を抱えた。
「もし断ったら社会的に抹消されそうだ……」
相手はうちの会社にとっても逆らえない藤ヶ谷グループ。
「オーウェン……これは逃げられないよ」
目の前に貼られたポスターを見て半泣きで囁いた。金髪の彼はただいつもの優しい笑顔で私を見ている。
とんでもないことになってしまった。もう相手の家族にご挨拶とは。……いや、もうも何もない、私たちに恋人期間なんてないんだから。
「仕方ない、こうなったら割り切って高級マンションでルームシェア、するしかない」
このためにマンションまで購入してもらったんだ、私もできる限りのことはしよう。とりあえずは、ご両親に気に入っていただけること。ここで結婚反対されてはマンションが無駄になる。
「て、ゆうか、私も親に言わなきゃ」
ついこの間まで「結婚の予定? ナイナイ」と両親に即答してガックリさせていた私が突然結婚だなんて言い出したら、二人とも驚きで失神するかもしれない。
そもそもどうやって藤ヶ谷さんを紹介すればいいんだ? どこで知り合ったんだとか、付き合ってどれくらいだとか絶対色々聞かれるに違いない。
困った。やっぱり安易に契約を決めては行けなかった。
携帯を片手に戸惑っていると、突如それが鳴り響いた。画面を見ると、今度は彼から電話が来ていた。
メッセージに電話と忙しないな……。行動力があると褒めればいいんだろうか。
私は少しコール音を聞いてから、それに出る。
「はい、もしもし」
『高杉さん、私です。先ほどお送りしたもの読まれましたか』
落ち着きのある、凛とした声が聞こえる。仕事が出来る男とは、その話し方一つにも表れると私は思っている。その声からは自信を感じ、人を魅了する声をしている。
「え、ええ……あの、マンションとか驚いてるんですが」
『あなたにも相談しようとは思ったんですが、気に入らなければまた他に買えばいいかと思いまして。場所はあなたが通勤しやすいところを選んだつもりですが』
他に買えばいい!?? 藤ヶ谷グループって、想像以上の金持ち!!
眩暈を覚えながらもなんとか食いしばる。
「い、いえ……勿体ないくらいです」
『それで15日の予定はどうでしょうか。両親がすぐにでもと言ってまして』
(マジで逃れられないわ……)
『まさか今更怖気付いていませんよね?』
「は、はい!! まさか!」
そのまさかなのだけれど、悟られてはいけないと思った。ここまで来たら引き下がれない。自分で下した決断の責任はとらねば。私は自分を戒める。携帯を耳に当てたまま背筋を伸ばした。
『よかった。高杉さんのご両親にもご挨拶に伺いますので予定を決めておいてください』
「はい……」
『ボロが出るといけないので色々設定を考えましょう』
藤ヶ谷さんの用意周到な設定を、その後延々と告げられた。
・付き合って一年
・キッカケは仕事で会った後藤ヶ谷さんから誘って食事をとった
・仕事に支障が出たりするといけないので周りにはずっと秘密にしていた
「はあ……わかりました」
『あとは何か聞かれたら私が答えますから適当に合わせてください。仕事は続けられますか?』
「はい」
即答した。離婚した後仕事もなしでは今後に困ってしまう。仕事は今のまま続けていくのが妥当だ。
『分かりました。両親は恐らく退職をすすめて来ると思いますが上手く説得します。
……それで、恋人同士ということで名前も呼ばせて頂きます、いいですね杏奈』
突如呼ばれた名前に、一瞬どきりとした。男性から下の名前で呼ばれる事なんてない。オーウェンは私の名前を呼ぶことはないのだ。
『あなたも私を適当に親しみやすい呼び方をしてください。では15日の場所や時刻はまた連絡します。あなたもご両親に説明しておいてくださいね』
有無を言わさない威圧感。これが、あの藤ヶ谷グループ副社長の力なのか……。
私はもう素直にハイ、と返事をするしかなかった。
ちなみにその後母に電話し、結婚したいことと、相手があの藤ヶ谷グループの副社長であることを告げると、変な奇声をあげて卒倒していた。ああ母よ。