3次元お断りな私の契約結婚
異性と二人で出かけるだなんてほとんど初めての体験だ。一体何をどうしてよいやらさっぱり分からない。
ポケットに入っていたスマホを出して現在上映中の映画を調べてみた。海外アクション映画やSF映画、恋愛ものなどがずらりと並んでいる。
……やばい、どれも興味ない。
「何がやってる」
巧が前のめりになって私の手元を覗き込んだ。そんな些細なことにさえなぜだか一瞬緊張してしまって、なんでだよと自分で突っ込んだ。
巧にも見せるようにスマホを傾けながら答える。
「こんな感じ……」
「見たいのは」
「え? ええーと……」
慌てて考える。ここはやはり初デートということで恋愛ものなどを選んだ方がいいのだろうか! いやラブシーンあったら気まずすぎない? でもアクション映画じゃさすがにムードないし、ってなんだムードって。映画館でムード出したいのか私は。
「……杏奈すごい汗かいてるけど」
「へっ!!」
指摘をうけて慌てて額を拭いた。確かに汗かいていた。手のひらがぐっしょりと濡れている。
巧がなぜか面白そうに小さく笑った。
「お前さ……実はあんまり映画とか好きじゃないだろ」
「え、ええっ……好きなジャンルは好きだよ」
「何が好きなの」
「ミステリーとかホラーとか(推しがいるアニメとか)」
「ああ、なるほど。ぽいな。んーでも今はそれ系統やってないのか……」
「巧は何が好きなの?」
「結構バランスよくなんでも見るよ、話題になってるやつは見ておくかってスタンス」
「へえ……」
一緒に暮らしてしばらく経つけれど、どんな映画が好きなのかすら知らないなあ、としんみり思った。そういえば巧って食べ物とか何が好きなんだろ、基本何でも食べてたけどさ……。
しばし沈黙を流した後、彼はあ、と小さく声を出す。
「これ、ホラーやってんじゃん。そういえばcmで見たわ」
「え」
目線を下げると、確かにホラー映画も上映していた。なかなか面白そうな内容だった。出ている出演者も豪華だ。
……いやでもさ。初デートでホラー見る? ムードかけらもなくない??
巧は一人満足げに頷いてほうれん草を食べる。
「よし決まり。昼頃の上映にしよう、昼飯はどっかで食べる」
「え、まじでこれ見るの?」
「なに、初デートはもっとロマンスな映画でも見たかったのか?」
どこかニヤニヤしたような顔でこちらを見てくる男にかっとなる。いや、見たかったわけじゃないから!!
「べ、つ、に!! そんなこと意識してませんしー!」
「お前時々なんで急にガキになるの」
「情けなく怖がっても知らないから」
「振りか? 夜一人で寝れないなら一緒に寝てやらないこともない」
「馬鹿!」
巧はまたしても面白そうに笑った。この前真っ赤になって私に告白してきた男と別人だろうか? おかしい、巧は今までと全然変わってないじゃないか。
付き合うってどういうことか分かっていない私は首を傾げる。そりゃ突然巧が甘い言葉でも言ってくるほうが調子狂うけどさあ……
「そうと決まればチケット取っておくから。杏奈は着飾ってこい」
「はーい」
「恥ずかしい格好で出るなよ、おにぎりとか」
「あれは寝る時だけよ! 普段はちゃんとしてるの知ってるでしょうが! ちゃんと藤ヶ谷の奥様として恥ずかしくないようにしますー」
「なら安心した」
巧はそう言いながら私が用意した卵かけご飯を食べた。今更ながら、藤ヶ谷副社長に卵かけごはんって私頭大丈夫かな。さすがに庶民的すぎた。巧も文句言ってくれてよかったのになあ。