3次元お断りな私の契約結婚





「着飾るのは得意だ」

 私は全身を鏡に写しながら独り言を言った。

 鏡の中には完璧に着飾っている自分がいる。メイクよし、ファッションよし。どこからどう見ても完璧だと思った。背後のオーウェンのポスターが映り込んでるのはちょっと背景としては相応しくないけど仕方ない。

 巧とのことで色々落ち込んでいた時はオーウェンに対しても気持ちが盛り上がらなかったけれど、プライベートが充実した途端元の自分に戻った。三次元に彼氏ができれば二次元は卒業するのかと思っていたが、それはそれ、これはこれらしい。新しいゲームもまた買ってしまった。むしろポスターの枚数増えてしまった。

 ……そういえば、巧が部屋に入室禁止だった理由はわかった。あの昔の手紙を見られたくなかったからだろうけど。

 私は言えてないなあ。この秘密。

 ゆらりと部屋中を見渡す。二次元のポスター、フィギュアにDVDたち、抱き枕……

…………

 いやこれあかんだろ。言わない方がいいだろ。だって絶対引くじゃん。巧が引いただろとか言ってた案件よりずっとやばいと思う。

 巧にカミングアウトする案はすぐに却下した。私はクローゼットからカバンを取り出すと、そそくさと自室を出る。

 ちょうどその頃、巧も部屋から出てきたところだったらしい。タイミングよく鉢合わせた。

「おお、行けるか?」

 よく見る黒いスウェットじゃなくなった巧を見て不覚にも緊張度が増してしまった。別に私服見るの初めてってわけじゃないのにさ。でもそんな戸惑いを知られるのは非常に癪なので平然を装う。

「うん、平気」

「よし行こう」

「あれ、ねえそういえば今って代車なの? 修理中でしょ?」

「修理中ってかもう買い替えることにしたから。んで今は親父の車一台借りてる」

 ぎょっとしてカバンを手から落としそうになった。まさか、藤ヶ谷社長のお車!? 絶対高級車じゃん!
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