3次元お断りな私の契約結婚
「そ、それ私のって大丈夫なのかな」
「はあ? 大丈夫に決まってんだろ」
「藤ヶ谷グループ社長のお車なんて……緊張しちゃう、靴脱いで乗ろうかな」
「なんでだよ」
笑いながら巧は言った。私は口を尖らせながらとりあえず玄関に向かう。背後から巧がついてくる。
玄関にあるシューズクロークを開けて中を見渡した。
「えっと、靴はどれにし」
「杏奈」
突然呼ばれて振り返る。そこには、考え込むようにじっとこちらを見ている巧がいて思わず固まる。
「え、な、なに」
「似合ってるな」
「ど、どうも」
「……でも俺は相当頭がヤバいみたいだな」
「今更気づいたの?」
私の言い方にまた笑った巧は、そのままひとしきり笑ったあと、目に浮かんだ涙を拭きながら言った。
「その格好もいいけどおにぎりが一番可愛いと思った」
「…………
あれ、ごめん褒めてる? 貶してる?」
褒められる心の準備をしていた私は目を座らせて巧を見た。おにぎりが似合う女ってことか?
巧はそんな私をみてさらに大声で笑った。何がそんなに面白いやら、今日ずっと笑われてる気がする。
「ごめん、行こうか」
「いやだから褒めたの貶したの」
「両方」
「なんだそれ!」
ふくれる私を見て、彼はただ微笑みながら靴を履いて玄関から出た。
義父の高級車に緊張しながら車で移動し、映画館へと向かう。
思えば巧と街並みなど歩いたことはなかった。偽装夫婦だったので当然と言える。
駐車場に停めてとりあえず私たちはぶらりと繁華街を歩き出した。同時に、一人で歩く時よりやたら注目を浴びていることに気づく。
原因は巧だった。女からの羨望の眼差しが痛い。まあ外見はなかなかイケてる男だと思うが、まさかこんなにチラチラと女が見てくるとは。
以前の私だったら、『はいはいこの男の中身を知らずに騙されて』って冷めた目で見ていただろうが、今はただくすぐったい気持ちになっていた。
彼氏……いや、夫? どう呼べばいいのかいまいち安定しないが、特別な人になったのには間違いなかった。そんな人の隣に歩いている。
違和感。変。ムズムズする。
こういう時ゲームとか漫画ではどうだったっけ、いやだから付き合う前のデートシーンばっかりなんだよなあ。でもあれか、漫画で言えば不良に絡まれるとか、突然巧の元カノと遭遇したり、急に大雨が降ってきて手を繋ぎながらびしょ濡れになってホテルで待……
…………
「どうした、顔が青いぞ杏奈」
「ちょっとね、朝から自分の経験値の低さに辟易しててね……脳内お花畑って感じで」
自分で考えてゲンナリしてしまった。現実と二次元の境が混乱してるぞ、そんな展開三次元で起きるわけがないだろ。雨降ったら車があるわ。コンビニで傘買うわ。
そんな私を不思議そうに隣から巧が見ていた。なんでもない、と答えてしゃんと背筋を伸ばす。
「上映何時からだっけ」
「11時半。それまでどっか行きたいとこあるか」
「え、ええ……ううん、か、買い物とか……?」
「オーケー。ようやく俺のカードの出番がやってきたな」
巧はそう満足げにいうと、突然すぐそばにあったブランド店に方向転換して入っていった。ぎょっとして目を丸くする。あまり私自身はブランド物なんてそこまで身につけるタイプの人間ではないのだ。それを、誰しも知ってる高級店に!
「巧、私そんな店は特に!」
慌てて追いかけて彼の背中にそう言って見せるが、聞こえているのか無視されたのか。巧はするりとガラスの扉をくぐり抜けてしまった。
そうなれば私もついていくしかできず、とりあえず足を踏み入れる。やはり、あまり居心地のいい店とは言えなかった。基本二次元にお金を使うのが優先だったので、ブランド物はあまり持っていない。
中は人もまばらだ。上品に飾られた靴や鞄が並ぶ。つい体に力が入ってしまった。私は小声でいう。
「巧、私こういうとこよりさ、もっと……」
「靴とかどうだ。この列全部買っちまえ」
彼は適当にそう言った。卒倒しそうになるのを懸命に堪える。列全部て!
そういえばマンションも1日で購入してきたりしたし、巧は買い物に時間をかけないタイプらしかった。
そりゃ藤ヶ谷グループの時期社長さんになるわけだけど! なるわけだけどさ!
私は慌てて彼の袖を引っ張って非難する。
「はあ? 大丈夫に決まってんだろ」
「藤ヶ谷グループ社長のお車なんて……緊張しちゃう、靴脱いで乗ろうかな」
「なんでだよ」
笑いながら巧は言った。私は口を尖らせながらとりあえず玄関に向かう。背後から巧がついてくる。
玄関にあるシューズクロークを開けて中を見渡した。
「えっと、靴はどれにし」
「杏奈」
突然呼ばれて振り返る。そこには、考え込むようにじっとこちらを見ている巧がいて思わず固まる。
「え、な、なに」
「似合ってるな」
「ど、どうも」
「……でも俺は相当頭がヤバいみたいだな」
「今更気づいたの?」
私の言い方にまた笑った巧は、そのままひとしきり笑ったあと、目に浮かんだ涙を拭きながら言った。
「その格好もいいけどおにぎりが一番可愛いと思った」
「…………
あれ、ごめん褒めてる? 貶してる?」
褒められる心の準備をしていた私は目を座らせて巧を見た。おにぎりが似合う女ってことか?
巧はそんな私をみてさらに大声で笑った。何がそんなに面白いやら、今日ずっと笑われてる気がする。
「ごめん、行こうか」
「いやだから褒めたの貶したの」
「両方」
「なんだそれ!」
ふくれる私を見て、彼はただ微笑みながら靴を履いて玄関から出た。
義父の高級車に緊張しながら車で移動し、映画館へと向かう。
思えば巧と街並みなど歩いたことはなかった。偽装夫婦だったので当然と言える。
駐車場に停めてとりあえず私たちはぶらりと繁華街を歩き出した。同時に、一人で歩く時よりやたら注目を浴びていることに気づく。
原因は巧だった。女からの羨望の眼差しが痛い。まあ外見はなかなかイケてる男だと思うが、まさかこんなにチラチラと女が見てくるとは。
以前の私だったら、『はいはいこの男の中身を知らずに騙されて』って冷めた目で見ていただろうが、今はただくすぐったい気持ちになっていた。
彼氏……いや、夫? どう呼べばいいのかいまいち安定しないが、特別な人になったのには間違いなかった。そんな人の隣に歩いている。
違和感。変。ムズムズする。
こういう時ゲームとか漫画ではどうだったっけ、いやだから付き合う前のデートシーンばっかりなんだよなあ。でもあれか、漫画で言えば不良に絡まれるとか、突然巧の元カノと遭遇したり、急に大雨が降ってきて手を繋ぎながらびしょ濡れになってホテルで待……
…………
「どうした、顔が青いぞ杏奈」
「ちょっとね、朝から自分の経験値の低さに辟易しててね……脳内お花畑って感じで」
自分で考えてゲンナリしてしまった。現実と二次元の境が混乱してるぞ、そんな展開三次元で起きるわけがないだろ。雨降ったら車があるわ。コンビニで傘買うわ。
そんな私を不思議そうに隣から巧が見ていた。なんでもない、と答えてしゃんと背筋を伸ばす。
「上映何時からだっけ」
「11時半。それまでどっか行きたいとこあるか」
「え、ええ……ううん、か、買い物とか……?」
「オーケー。ようやく俺のカードの出番がやってきたな」
巧はそう満足げにいうと、突然すぐそばにあったブランド店に方向転換して入っていった。ぎょっとして目を丸くする。あまり私自身はブランド物なんてそこまで身につけるタイプの人間ではないのだ。それを、誰しも知ってる高級店に!
「巧、私そんな店は特に!」
慌てて追いかけて彼の背中にそう言って見せるが、聞こえているのか無視されたのか。巧はするりとガラスの扉をくぐり抜けてしまった。
そうなれば私もついていくしかできず、とりあえず足を踏み入れる。やはり、あまり居心地のいい店とは言えなかった。基本二次元にお金を使うのが優先だったので、ブランド物はあまり持っていない。
中は人もまばらだ。上品に飾られた靴や鞄が並ぶ。つい体に力が入ってしまった。私は小声でいう。
「巧、私こういうとこよりさ、もっと……」
「靴とかどうだ。この列全部買っちまえ」
彼は適当にそう言った。卒倒しそうになるのを懸命に堪える。列全部て!
そういえばマンションも1日で購入してきたりしたし、巧は買い物に時間をかけないタイプらしかった。
そりゃ藤ヶ谷グループの時期社長さんになるわけだけど! なるわけだけどさ!
私は慌てて彼の袖を引っ張って非難する。