3次元お断りな私の契約結婚
何か話そうと思っても話題が思いつかず言葉が出ない。店のBGMがやたら響いていた。
なんだか、なあ。付き合ってるカップルってこんな感じでいいのかな。
見たのもホラー映画だし、手を繋いで街を歩くわけでもないし、向かい合っても沈黙流してる。私にはどうしてもわからない。
「これからどうする」
突如巧が言った。その声に反応してびくっと体が揺れる。
「あ、えーとそうだね」
急いで頭の中を回転させるが、もうこの恋愛ど素人の知識は全て使っていた。映画、買い物、ランチ。他に何も浮かんでこない。あとは海に行って「捕まえてごらん」とか追いかけ回してる馬鹿みたいな映像しか思い浮かばなかった。
これから。これからって、何しよう。みんな何してるの? 全然わからない。
「もう、堪能したかなあ……」
ポツンと声を出す。まだ時刻は昼過ぎだと言うのに、そんな言葉が漏れてしまった。
まだ外に出てほんの三、四時間しか経過していない。そのうちの二時間近くは映画を見ていただけで、デートらしいことはまるでしていないのに、もう堪能したとはこれ一体。
はっと巧が行きたいところを聞けばよかったとすぐに思い出す。慌てて彼に言った。
「あ、巧は行きたいところとか」
「ん? いや、杏奈が堪能できたならいい」
私の質問に、彼は笑ってそう答えた。けれどもその顔はいつもの自信に満ちた彼とは違い、どこか力ない笑みのように見えた。
そんな顔を見て、ああやっぱり返事を間違えたと後悔する。初デートをこんなに早く切り上げようとする女なんてダメだ、あまりに酷い。
それでもこれから行く先なんてやっぱり思い浮かばなくて、私は困りながらただ目線を泳がせた。
そのまま車に乗って帰宅してきた私たちは、初デートを終了させた。なんともあっけない一日だった。
巧とマンションに戻り、彼はいつものようにリビングへ入っていった。私は今日買った靴をシューズクロークへ収納する。普段使いするには流石に気が引けるので、多分ここぞという時に出番が来るはずだ。そのここぞと言う時がいつなのかは知らない。
私は自分のカバンを置くために一旦自室へ入った。キラキラ金髪の王子が笑って出迎えてくれるが、私の口からはため息しかもれなかった。
しまったなあ。もうちょっと気の利いたことをいえればよかったな。
今更ながら、私の買い物はしたけど巧の買い物はしてないんだしそれを提案してみるとか。別に必要じゃなくても二人の生活雑貨でも見に行くとか、今考えれば浮かんでくると言うのに。なぜあの時提案できなかったんだ私。
とりあえずスマホを開いて『付き合いたて デート 行き先』と検索をかけた。中学生か私は。
呆れながらも検索結果を必死に読み込んでいると、デートする場所だけではなくさまざまなエピソードがインターネット上にばら撒かれていた。
初デートで手を繋ぐ……?
初デートでキスをする……?
「お、おいおい……世のみんなはそんな高度なデートしてるのか……!」
驚愕した私は記事を血走った目で読み込む。
『年上の彼との初デートの帰り道、手を繋いでファーストキスを交わしました☆忘れられない思い出になりました!(14歳女性)』
「14歳女性いいい!!」
絶望を覚えてスマホをベッドに投げつけた。一回り以上年下の女の子が! 私より有意義なデートしてる!
手を繋いで? 今日のあれは手を繋いだうちに入るのか? いやいやあれは繋いだじゃなくて手すりの代わりだ、ノーカウントだ。キス? 事故みたいなやつしかしてないよ! 突然のことすぎてどんな感覚だったかも覚えてない。今日キスするタイミングもムードもこれっぽっちもなかった。
私は頭を抱えてその場にしゃがみ込んだ。
果たして今日のあれはデートと呼べたのかも怪しいと思った。友達と出かけたみたいなものじゃないのか。
「はあー……」
大きく息を吐いて俯いた。人生で初めてのデート、全然だめじゃん。
「……っていうかさ」
私より断然デート慣れしてるであろう巧も、あんな感じなのってどうなの? あの男、性格から見るに何か手が早そうなのに、やっぱり私があまりにもノリが悪かったからだろうか。そりゃ昼過ぎに帰るような女じゃなあ。
ぐるぐると色んな意見が頭を回って結論など出てこない。私はふらふらと立ち上がり、とりあえずリビングへ行こうと思った。家に帰ってきて自室に篭りきりじゃ態度悪く見えるだろう。もうこの頭じゃ何を考えても答えは出なさそうだ。
力ない足どりで自室を出てリビングへ向かう。ゆっくりとその扉を開けると、先に入っていた巧がソファに座ってスマホをじっと眺めていた。
その姿を見て再び申し訳なく思う。初めてのデート、ノリの悪い女でごめん。
「巧……」
声をかけると、彼は私が入ってきたことに気がついてなかったのか驚いたようにこちらを見た。そしてすっと携帯をポケットに仕舞い込んだ。
「ん、何?」
「あ、いや、えーと、靴、改めてありがとう……」
「別に。預けたカードで勝手に買ってもいいんだから」
なんだか、なあ。付き合ってるカップルってこんな感じでいいのかな。
見たのもホラー映画だし、手を繋いで街を歩くわけでもないし、向かい合っても沈黙流してる。私にはどうしてもわからない。
「これからどうする」
突如巧が言った。その声に反応してびくっと体が揺れる。
「あ、えーとそうだね」
急いで頭の中を回転させるが、もうこの恋愛ど素人の知識は全て使っていた。映画、買い物、ランチ。他に何も浮かんでこない。あとは海に行って「捕まえてごらん」とか追いかけ回してる馬鹿みたいな映像しか思い浮かばなかった。
これから。これからって、何しよう。みんな何してるの? 全然わからない。
「もう、堪能したかなあ……」
ポツンと声を出す。まだ時刻は昼過ぎだと言うのに、そんな言葉が漏れてしまった。
まだ外に出てほんの三、四時間しか経過していない。そのうちの二時間近くは映画を見ていただけで、デートらしいことはまるでしていないのに、もう堪能したとはこれ一体。
はっと巧が行きたいところを聞けばよかったとすぐに思い出す。慌てて彼に言った。
「あ、巧は行きたいところとか」
「ん? いや、杏奈が堪能できたならいい」
私の質問に、彼は笑ってそう答えた。けれどもその顔はいつもの自信に満ちた彼とは違い、どこか力ない笑みのように見えた。
そんな顔を見て、ああやっぱり返事を間違えたと後悔する。初デートをこんなに早く切り上げようとする女なんてダメだ、あまりに酷い。
それでもこれから行く先なんてやっぱり思い浮かばなくて、私は困りながらただ目線を泳がせた。
そのまま車に乗って帰宅してきた私たちは、初デートを終了させた。なんともあっけない一日だった。
巧とマンションに戻り、彼はいつものようにリビングへ入っていった。私は今日買った靴をシューズクロークへ収納する。普段使いするには流石に気が引けるので、多分ここぞという時に出番が来るはずだ。そのここぞと言う時がいつなのかは知らない。
私は自分のカバンを置くために一旦自室へ入った。キラキラ金髪の王子が笑って出迎えてくれるが、私の口からはため息しかもれなかった。
しまったなあ。もうちょっと気の利いたことをいえればよかったな。
今更ながら、私の買い物はしたけど巧の買い物はしてないんだしそれを提案してみるとか。別に必要じゃなくても二人の生活雑貨でも見に行くとか、今考えれば浮かんでくると言うのに。なぜあの時提案できなかったんだ私。
とりあえずスマホを開いて『付き合いたて デート 行き先』と検索をかけた。中学生か私は。
呆れながらも検索結果を必死に読み込んでいると、デートする場所だけではなくさまざまなエピソードがインターネット上にばら撒かれていた。
初デートで手を繋ぐ……?
初デートでキスをする……?
「お、おいおい……世のみんなはそんな高度なデートしてるのか……!」
驚愕した私は記事を血走った目で読み込む。
『年上の彼との初デートの帰り道、手を繋いでファーストキスを交わしました☆忘れられない思い出になりました!(14歳女性)』
「14歳女性いいい!!」
絶望を覚えてスマホをベッドに投げつけた。一回り以上年下の女の子が! 私より有意義なデートしてる!
手を繋いで? 今日のあれは手を繋いだうちに入るのか? いやいやあれは繋いだじゃなくて手すりの代わりだ、ノーカウントだ。キス? 事故みたいなやつしかしてないよ! 突然のことすぎてどんな感覚だったかも覚えてない。今日キスするタイミングもムードもこれっぽっちもなかった。
私は頭を抱えてその場にしゃがみ込んだ。
果たして今日のあれはデートと呼べたのかも怪しいと思った。友達と出かけたみたいなものじゃないのか。
「はあー……」
大きく息を吐いて俯いた。人生で初めてのデート、全然だめじゃん。
「……っていうかさ」
私より断然デート慣れしてるであろう巧も、あんな感じなのってどうなの? あの男、性格から見るに何か手が早そうなのに、やっぱり私があまりにもノリが悪かったからだろうか。そりゃ昼過ぎに帰るような女じゃなあ。
ぐるぐると色んな意見が頭を回って結論など出てこない。私はふらふらと立ち上がり、とりあえずリビングへ行こうと思った。家に帰ってきて自室に篭りきりじゃ態度悪く見えるだろう。もうこの頭じゃ何を考えても答えは出なさそうだ。
力ない足どりで自室を出てリビングへ向かう。ゆっくりとその扉を開けると、先に入っていた巧がソファに座ってスマホをじっと眺めていた。
その姿を見て再び申し訳なく思う。初めてのデート、ノリの悪い女でごめん。
「巧……」
声をかけると、彼は私が入ってきたことに気がついてなかったのか驚いたようにこちらを見た。そしてすっと携帯をポケットに仕舞い込んだ。
「ん、何?」
「あ、いや、えーと、靴、改めてありがとう……」
「別に。預けたカードで勝手に買ってもいいんだから」