3次元お断りな私の契約結婚
 口ごもる私をみて、巧は怪訝そうにこちらをみてくる。

「杏奈?」

「い、や、巧は、どんな本読むのかなあ、って……」

「経営学の本だよ。読むか?」

「イリマセン」

「だろうな」

 そんな短い会話だけすると、巧はさっさと自分の部屋に入っていってしまった。パタンと扉が閉められてしまう。そのドアを意味もなく眺め続けた。

 朝、よく笑いながら私に話しかけてくれた態度とは明らかに違った。あんなに小さな事でも笑って楽しそうに人をからかってきたのに、今は会話も短く自室にこもってしまった。確実に、巧は機嫌を損ねている。

「…………はあ〜……」

 力なく息を吐いてその場にヘナヘナとしゃがみ込んだ。

 嘘でしょ。三次元の男と付き合うって、こんなに難しいの? 恋愛ゲームみたいに行動が全部選択肢になってて選ぶだけの展開とはまるで違う。


 ▷「ごめんね、デートなんてしたことないから緊張しちゃってて」
 ▷「今日の映画イマイチだったからまた違うの見に行かない?」
 ▷(無言で抱きつく)


 こんな感じでコマンドが出てきてくれればいいのに。選択肢が無限って、難易度が高い。

 私にはあまりに難しい。



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