3次元お断りな私の契約結婚
その日の夜はスマホで「彼氏と仲直りする方法」や、「男性が喜ぶデート」だなんて検索をし続けて夜が明けてしまった。今の私の検索履歴は誰にも見せれない。
翌朝、少し寝坊してリビングへ行った時、巧はいなかった。昨日卵かけご飯を食べたのが嘘みたいに遠く感じる。私は誰もいないリビングをみてただため息をつくしかなかった。
付き合い出して1回目のデートでこれだけ気まずくなれるカップルなんてある?
落ち込む心を奮い立たせた。私は冷蔵庫を開けて覗き込む。中身をみて腕まくりをした。
中学生みたいな検索履歴でたどり着いた答えはこれだった、「とびきりの手料理でももてなして仲直りをする」!
……呆れるわ、一晩探した結果これか。誰でも思いつきそうなことだ。
それでも他に自分が実行できそうなものがなかった。それに、外より家でゆっくり向かい合って食事をとったほうがあまり緊張することもなく巧と話せると思った。そしたら私の恋愛偏差値についても言い出しやすいかもしれない。
以前大鍋に作ったカレーをふるまったくらいで、私はそれ以降ほとんどマトモな料理をしていない。平日は基本すれ違い生活で食事も一緒にとっていなかったせいもある。
でも今日ばかりは手によりをかけて作らねば!
鼻息を荒くして、これまた調べ抜いた料理のレシピを開く。中の材料と比べて足りないものを確認し、まずは買い物に行こうと意気込み近くのスーパーへ駆け出して行った。
「………………」
私は無言で時計を見上げた。
テレビも何もつけていない部屋は無音だ。時刻は昼を過ぎてもう十四時になっていた。
朝スーパーに行くときに気が付いたのだが、駐車場に車がなかった。つまり、巧は私が起きてくるより先に出かけていたのだ。
それでもすぐに帰ってくるだろうと軽く考えていた。昨日の本屋みたいに、簡単な買い物にでも行っているかなあと。
だって一応付き合ってる……というか結婚してるんだけど、それでいて一緒に暮らしているんだから、休日に一日出かけるなら一言くらいなんかあるのかと思って。以前のルームシェア状態とは違う。
きっと昼前くらいには帰ってくるかなあと思って料理を作った。ところが、この通り巧は未だ帰ってきていない。完成させた料理たちはラップの下でとうに冷めてしまっていた。
テーブルの上に置いておいた携帯を手に取る。特に着信はなし。昼ごろ、痺れを切らした私は巧にLINEを送っていた。「お昼ご飯どうする?」と。
既読すらなっていない。
「…………も……自由すぎだろあの男……」
椅子の上で膝を抱えてそこに顔を埋めた。
私たちの関係はあまりにイレギュラーだ。
普通付き合う前に電話したり、LINEしたりして連絡を取り合ってから親しくなる。私たちにはそれがない。
一緒に暮らす前に交わした約束は家事の分担のみで、あとはお互い自由に暮らしていた。どこで食事を取ろうが何時に家に帰ろうが自由だったのだ。それが突然恋愛関係になった。今までの生活態度をどうするかは話し合っていない。
私の感覚が変なんだろうか。巧は今までみたいな暮らし方でこれからもやってくつもりだったんだろうか。
でもだって、ルームメイトと彼女って違うんじゃないの? え、一緒なの? もうわかんないよ。
これまでのように自由な暮らしっぷりだとしたら、それって付き合ってるって言えるのかな。そりゃ結婚とお付き合いは違うけどさ、あれでもそういえば結婚もしてるんだったわ、頭こんがらがってきた。
昨日から何度目か分からないため息を漏らす。一人で全部食べてやろうか。
相手が何を考えているか分からないってものすごく難しい。
私は諦めて一人で食べるために箸を持った。温め直すのも面倒なので、そのままラップを取って大きな口でかぶりつく。無駄に盛り付けに時間をかけたチキン南蛮は一瞬で崩れてお腹に入っていった。