3次元お断りな私の契約結婚
「ど、どうした」

「昨日から……なんか全然上手く出来ないから、巧も呆れたかなって」

「何が?」

「せ、せっかく初めて出かけたのにすぐ帰りたいみたいなこと言っちゃって……わた、私ほとんど男の人と出かけたことなんかないから緊張して全然わかんなくて。気の利いたことも言えないし……」

「……え」

「ごめん、私本当に恋愛ってよくわかんないんだよ。スマホでデートの仕方を調べるくらい偏差値が低いんだよ」

 鼻声で震えた私の声が部屋に響いた。巧は返事をすることもなく無言で私を見ている。

 ついにこんなタイミングで言ってしまった。全てが計画外だ、巧の分の料理もほぼ完食して半泣きでこんな暴露をするだなんて。

 しばらくそのまま棒立ちになっていた巧は、次の瞬間踵を返してリビングから足早に出ていった。突然の行動に、私は涙も止めてキョトンとする。

 ドタドタと足音を立てながら巧が戻ってきたかと思うと、手には何やら本を持っていた。巧はテーブルの上にそれらを乱暴に置いた。

 並んだ本達を見て目が点になる。

『おすすめデートスポット』『レストラン特集』『ケーキ特集』…………?

 巧が持っているとは思えないラインナップ。

 私はぽかんと目の前の巧を見上げる。そのとき、巧の顔を見てはっとした。
 
 巧はどこか赤い顔をして私から視線を逸らしたまま言った。

「そんなの俺もだよ」

「……へ」

「思えば昨日、杏奈にばっかり意見聞いて、つまらなかったんだろうなって。反省して、買ってきた」

「……え!?」

「今日はそこの雑誌に書いてあった場所見てきて、帰りにケーキ屋行って買ってきた。昨日買い物も俺の好み押し付けたし、なんか、自分よがりだったから杏奈が呆れてるのかと思って」

 予想外の言葉に開いた口が塞がらない。

 私はなかなか頭がついていかなくて、意味もなく目の前の雑誌たちと巧を交互にみくらべた。巧が、これ買って、下見に行ってたってこと……?

 あのいつだって自信家の巧が? すました顔してる巧がそんなことしてたの?

「で、でも巧は今までもたくさんデートしてきたんじゃないの……」

「どうでもいい相手だったから何も考えてなかったし、適当に過ごしてただけ。今思えばデートっぽいことなんかしてない」

「そう、なの?」

「だから俺もよく分からないんだ。杏奈をどこに連れて行けばいいのかとか、全然分からなくて……」

 そこまで言うと、巧は手で口元を押さえた。泳ぐ視線が彼の戸惑いを表している。
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