3次元お断りな私の契約結婚
 つい先日付き合い出してようやく軽いキスを済ませただけの女にはレベルが高い話だ。

「あらごめんなさいね。ねーいいじゃない? いい旅館予約取ってあげるわ、リフレッシュにもなるわよ杏奈さん!」

「あ、ええっと、そ、そうですね……」

「あなたたちいつなら空いてる? すぐに予約取るわよ! ゆっくり温泉浸かって美味しいご飯食べるだけで気分は変わるわよ〜」

 完全にお義母さんのペースになっている流れを、私も巧も変えるだけの力がなかった。むしろ、普通の夫婦なら喜んで食いつかねばならない事案なのだ。
 
 するとずっと黙っていた隣の樹くんが言った。

「俺も行っていい?」

「……え!?」

「まあまあ! 家族全員で旅行なんていつぶりかしら!? 杏奈さんが来てからほんと仲良くなって嬉しいわ。樹も来なさい、あんたにはあんた用で部屋一部屋取ってあげるわ、昼食くらいみんなでどっかで食べて、夜はそれぞれって感じでいいかしら、いいわね!」

 決定した。口を挟む間もなく。

 顔を引きつらせている私と、頭を抱えている巧はもう言葉を発する気力すらなかった。

 こうして私たちの温泉旅行は急遽決定してしまった。






 






 




 


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