3次元お断りな私の契約結婚
「麻里ちゃん、私は何を準備したらよいだろう」
私は旅行バッグの前に正座をして、背筋をピンと伸ばしたまま無表情で尋ねた。
電話口の麻里ちゃんはキョトンとした様子で答えてくる。
『え、着替えの下着とかースキンケア用品とか、メイク道具もいるしー』
「そうじゃない。麻里ちゃん、そうじゃない」
『あー夜に向けてってこと? あれ、むしろまだ済ませてなかった?』
「オフコース、済ませてたら温泉行くのにこんなに緊張してない!!」
私はつい焦って声を荒げた。すぐにはっと冷静になり咳払いをする。落ち着け、落ち着くんだ。
あれからお義母さんの仕事は早く、食事をした三週間後に温泉旅行の日が来てしまった。これから巧の車で隣県の温泉旅館まで向かうことになっている。
旅行カバンに着替え等しっかり準備を行った後、私は耐えきれない緊張と混乱で麻里ちゃんに電話を掛けていた。
部屋割りは巧と私二人の部屋となる。それが普通だ。今までだって一つ屋根の下に過ごしてきたわけだが、お互いの部屋はあったし寝る時だって無論別々だった。
同じ部屋で男性と並んで寝るだなんて、お父さんしか経験していない。あとはオーウェンの抱き枕をカウントしていいだろうか。
『え、だって。仲直りしてキスできたって報告してきたの三週間も前じゃん。その後何してたのよいい年の男女が同じ家に住んでて』
信じられない、というように麻里ちゃんがいう。私は正座を崩して膝を抱えた。口を尖らせていう。
「え、ええと……週末は出かけたりしたよ。買い物したり、ケーキ食べに行ったり……」
『ようやくカップルらしいね』
「でもそれだけで、別に何も……家でもご飯食べたりテレビ見たりしてるだけで……」
ゴニョゴニョと小声でいう私に、麻里ちゃんがため息をついたのが電話口から聞こえた。
『それだけ? それだけなの?』
「それだけですよ。むしろキキ、キスすらあれ以降してない」
『キスでどもるな』
「なのに急に温泉とか言われて私はパニックの最上級なわけですよ!! やっぱりすんごい下着とか持ってった方がいいの、どうしよう買ってないよ!」
『とにかく落ち着いたらどうかな』
私は携帯を耳に当てたまま床に倒れ込んだ。そう、チキン南蛮味のキスだけしたまま、それ以降結局何もしてないいい大人の私たち。
だってしょうがない、私から動くわけにもいかないし。でも確かにまあ、一般的に考えてかなりスローなペースであることは流石に理解していた。
付き合うとなって一ヶ月。一つ屋根の下にいながら、たった一度のキスのみとは。
だがしかしさすがに同室で過ごすとなれば状況は変わるだろう。てゆうかむしろその状況で何もなかったら私たちはきっと永遠に何もない。
『別に何もいらないんじゃない、一番大事なのは気持ちの問題でしょ』
「気持ちとは……? さすがに私もいい大人だしその階段ぐらい登るつもりはある」
『成長したねえ杏奈! じゃあ大丈夫よ、ヨレヨレの下着だけ避けときゃいいって!』
「ほんとにい……? もうわかんないよ、吐きそう」
『いい悩みだね杏奈! 初々しいわ〜私までワクワクしちゃう! 楽しんできてね温泉!』
完全に面白がってる麻里ちゃんをちょっとだけ恨みながら電話を切った。相談したのが間違いだっただろうか、私っていつも麻里ちゃんに赤裸々すぎだよね。
はあとため息をついたところで、突然部屋にノックの音が響いて体が飛び跳ねた。巧が私の部屋を訪れるのは非常に珍しい。
「は、はい!?」
「杏奈、行けるか?」
「あ、う、うん大丈夫!」
扉の向こうからそれだけ声をかけてきた巧は、そのまま玄関へと向かっていったらしかった。私は荷物の最終確認を行うと、しっかりオーウェンに挨拶をしてから自室を出る。
ちらりと玄関をみると、もう靴も履き終えた巧が立っていた。そして私の持つ鞄を見る。
私は旅行バッグの前に正座をして、背筋をピンと伸ばしたまま無表情で尋ねた。
電話口の麻里ちゃんはキョトンとした様子で答えてくる。
『え、着替えの下着とかースキンケア用品とか、メイク道具もいるしー』
「そうじゃない。麻里ちゃん、そうじゃない」
『あー夜に向けてってこと? あれ、むしろまだ済ませてなかった?』
「オフコース、済ませてたら温泉行くのにこんなに緊張してない!!」
私はつい焦って声を荒げた。すぐにはっと冷静になり咳払いをする。落ち着け、落ち着くんだ。
あれからお義母さんの仕事は早く、食事をした三週間後に温泉旅行の日が来てしまった。これから巧の車で隣県の温泉旅館まで向かうことになっている。
旅行カバンに着替え等しっかり準備を行った後、私は耐えきれない緊張と混乱で麻里ちゃんに電話を掛けていた。
部屋割りは巧と私二人の部屋となる。それが普通だ。今までだって一つ屋根の下に過ごしてきたわけだが、お互いの部屋はあったし寝る時だって無論別々だった。
同じ部屋で男性と並んで寝るだなんて、お父さんしか経験していない。あとはオーウェンの抱き枕をカウントしていいだろうか。
『え、だって。仲直りしてキスできたって報告してきたの三週間も前じゃん。その後何してたのよいい年の男女が同じ家に住んでて』
信じられない、というように麻里ちゃんがいう。私は正座を崩して膝を抱えた。口を尖らせていう。
「え、ええと……週末は出かけたりしたよ。買い物したり、ケーキ食べに行ったり……」
『ようやくカップルらしいね』
「でもそれだけで、別に何も……家でもご飯食べたりテレビ見たりしてるだけで……」
ゴニョゴニョと小声でいう私に、麻里ちゃんがため息をついたのが電話口から聞こえた。
『それだけ? それだけなの?』
「それだけですよ。むしろキキ、キスすらあれ以降してない」
『キスでどもるな』
「なのに急に温泉とか言われて私はパニックの最上級なわけですよ!! やっぱりすんごい下着とか持ってった方がいいの、どうしよう買ってないよ!」
『とにかく落ち着いたらどうかな』
私は携帯を耳に当てたまま床に倒れ込んだ。そう、チキン南蛮味のキスだけしたまま、それ以降結局何もしてないいい大人の私たち。
だってしょうがない、私から動くわけにもいかないし。でも確かにまあ、一般的に考えてかなりスローなペースであることは流石に理解していた。
付き合うとなって一ヶ月。一つ屋根の下にいながら、たった一度のキスのみとは。
だがしかしさすがに同室で過ごすとなれば状況は変わるだろう。てゆうかむしろその状況で何もなかったら私たちはきっと永遠に何もない。
『別に何もいらないんじゃない、一番大事なのは気持ちの問題でしょ』
「気持ちとは……? さすがに私もいい大人だしその階段ぐらい登るつもりはある」
『成長したねえ杏奈! じゃあ大丈夫よ、ヨレヨレの下着だけ避けときゃいいって!』
「ほんとにい……? もうわかんないよ、吐きそう」
『いい悩みだね杏奈! 初々しいわ〜私までワクワクしちゃう! 楽しんできてね温泉!』
完全に面白がってる麻里ちゃんをちょっとだけ恨みながら電話を切った。相談したのが間違いだっただろうか、私っていつも麻里ちゃんに赤裸々すぎだよね。
はあとため息をついたところで、突然部屋にノックの音が響いて体が飛び跳ねた。巧が私の部屋を訪れるのは非常に珍しい。
「は、はい!?」
「杏奈、行けるか?」
「あ、う、うん大丈夫!」
扉の向こうからそれだけ声をかけてきた巧は、そのまま玄関へと向かっていったらしかった。私は荷物の最終確認を行うと、しっかりオーウェンに挨拶をしてから自室を出る。
ちらりと玄関をみると、もう靴も履き終えた巧が立っていた。そして私の持つ鞄を見る。