3次元お断りな私の契約結婚
「忘れもんないか?」

「あ、多分大丈夫」

「ま、忘れたら買えばいいからな。行こう」

 私も靴を履いて玄関の扉から出た。巧と並んで駐車場を目指して歩いていると、困ったように彼が言う。

「悪かったな」

「え?」

「うちの親、強引で。こんなことになるとは」

「いやそんな、温泉は楽しみだよ! 別にお義母さんたちとはほとんど別行動だっていうからそんなに色々バレるか心配しなくてよさそうだし。最悪巧が一緒だから誤魔化せそう。この前巧がいない時はいつボロが出るか心配だったから……」

「まあな、今回は一緒だからなんか聞かれたら俺に合わせておけばいい」

 エレベーターに乗り込み、駐車場まで降りて行く。なんとなく隣の巧を見上げた。彼は腕時計を眺めている。

 変に一人緊張感が増してしまった私は自分を落ち着かせるためにゆっくり深呼吸をした。大丈夫だから、落ち着いて行こう。

 エレベーターの扉が開き、ふんっと鼻から息を吐いた。

 温泉旅行、きっと楽しいものになるはず!!!







 藤ヶ谷家が泊まるということでやはりいい旅館だろうなと想像していたが、到着してみると開いた口が塞がらないレベルだった。

 部屋は広々とした和室に客室露天風呂付き。景色最高、アメニティ豪華。こんなところに泊まれるだけで感謝しなくてはいけないと思った。

(……いやいや、てかお風呂付きって!!)

 初めて泊まる! 私はワクワクしてそれを覗き込んだ。大浴場とはまた違った楽しみが出てくる。風情のある檜の露天風呂は雰囲気が最高だ。

「見て見て巧! お風呂ついてるーーー!」

 子供のように大声で巧を呼びつけた。彼はノロノロとこちらに足を運び、さして驚く素振りもなくお風呂を見る。

「別に珍しいもんでもないだろ」

「珍しいでしょ、これがついてるとお値段一気に上がるんだから! 少なくとも私は初めて!」

「そうなのか、子供の頃から風呂がついてない部屋になんか泊まったことなかった」

「金持ちの感覚怖すぎ」

 呆れてそう突っ込みながらも、私はすぐに顔を綻ばせる。

「いいお部屋だなーこれなら夜中でもお風呂入れるね!」

 ニコニコしながらそう話して巧を見上げた時だった。バチっと目が合った彼は、少し間があった後気まずそうに視線を逸らして、なんともわざとらしい咳払いをした。

…………あっ、決してやましい意味ではないのだが!!

 自分が考えなしに出してしまった発言に自分で赤面する。いや、普通の発言だよ、でも状況が状況だからなんか変な感じに聞こえるって!
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