3次元お断りな私の契約結婚
大浴場でもしお義母さんに会ってしまった日にはどうしようかとドキドキしていたが、タイミングがずれていたのかそれはなかった。よかった、裸の付き合いだなんてちょっと気まずい。
まったり温泉に浸かり日頃の疲れをとった頃、湯気が出そうなくらいホカホカした体を弾ませながら部屋へと戻った。大満足の素敵なお風呂だった、明日の朝も入らなきゃ。それに浴衣ってなぜかテンション上がるよなあ。
ルンルンであの広い部屋へ戻った時、言っていた通り巧の方が早かったらしく鍵は開いていた。私は何も考えずに部屋への襖を開ける。
「ねーすっごくいいお風呂……」
言いかけた言葉が止まる。窓際にある椅子に腰掛けていた巧が振り返ってこちらを見て目が合った。
紺色の浴衣に身を包んだ巧が、想像以上に似合っていて停止してしまったのだ。
無駄に身長が高くスタイルがいい体に、黒髪と整った顔立ちは和装が非常によく似合っていた。正直どっかの雑誌に載っていてもおかしくないんじゃないかと思った。
……ひぇっ、やばい、巧がカッコいい!
そう思った自分に衝撃を受けた。私は自分の付き合ってる人(夫)をカッコいい〜だなんて思うイタイ女だったのか! いや、付き合ってるんだからそれくらい思ってもいいのか? これが普通なの? そりゃ巧は元々外見は整っていた。でも日常生活で、改めてかっこいいなんて思ったこと一度もなかったのに。
非常に、戸惑っている。心がむず痒い。
「杏奈? どうした」
「あ、いえ、なん、いやあ……」
「本当風呂長かったな。俺とっくに出てきてた」
「そ、のようだね」
とりあえず彼から顔を背けて部屋に入り襖を閉めた。しずしずと敷いてある座布団の上に正座し小さくなる。
今更だけど私なかなかすごい人と結婚してるんだな。ビジュアルは文句の付けようがない。しかも藤ヶ谷副社長、だなんて。
「杏奈?」
「あ、お風呂すんごいよかったねーあはははは」
「なんで棒読み」
「ちょっとのぼせちゃって。あは」
「……ああ。俺の浴衣そんなに新鮮だった?」
意地悪そうな声が聞こえて顔を上げる。見ると、巧は勝ち誇ったように口角を上げてこちらを見ていた。自信に満ち溢れているその顔をみて思い出す。
そうだった。ビジュアルもステータスも文句なしのこの男の欠点は性格が歪んでるところだった。
巧が立ち上がり私のところに歩み寄る。しゃがみ込み、私の顔を覗き込む。随分と嬉しそうだ。
「浴衣好きだった?」
「いえどちらかと言えば異国の王族の方が」
「は?」
「あ、いや! えーと、まあ、似合ってると思うよ」
なんだか恥ずかしいがそこは素直に告げる。でも彼にその返事は物足りなかったらしい。ずいっと私に顔を寄せて不満げに言う。