3次元お断りな私の契約結婚
「それにしても巧が結婚って信じられないわ」
感心したように樹くんが呟く。まあ、契約上の結婚ですからね。私は心の中で呟く。
「大丈夫? うちの兄、細かいし性格悪いけど」
「樹」
すぐに巧さんが止めに入る。しかし私はつい笑ってしまった。それを巧さんに睨まれる。
「ええ、大丈夫です」
「ふーんならよかった。ずっと忘れられない女がいるって言ってたから結婚なんてしないかと思った」
サラリと下した爆弾発言に、一瞬空気が固まる。このタイミングでそれを投下した彼に、なるほど兄弟仲が悪いというのは本当らしいと理解した。
無邪気な顔をしながら、少し悪意の込められたコメント。よっぽどお兄さんが嫌いなのだろうか。
「樹、いい加減」
「ええ、存じ上げています」
怒りの声を発した巧さんに被せるように、私は声をあげた。みんなが注目したのがわかる。
ニコリと笑う。大丈夫、こういうシーンは勉強済みだ。
なぜならオーウェンにも兄弟仲の悪い弟がいるから!!
「過去の話は巧さんから聞いたことあります。でも私は気にしません。私たちは過去ではなく未来を生きていきますから」
とにかく夫となる人を建てねばならない。別に巧さんを攻略するわけではないが、契約上しっかり妻を演じなくては。
隣の巧さんが少し驚いたようにこちらを見た。奥様はほうっと息を漏らして微笑む。
「ええ、ええそうね。素晴らしいわ。樹、変なことを言うのはおよしない、杏奈さんに失礼でしょう」
「はーい。すみませんでした」
樹くんは含みのある笑いを浮かべながら素直に引き下がった。大人しく黙る。
話題を変えるように、社長が声をあげた。
「では、まずは乾杯でもしよう、杏奈さんシャンパンでいいかな」
「ええ、ありがとうございます」
ちょうどやってきて定員に、社長ドリンクを注文する。すぐに冷えたシャンパンが運ばれてきた。車の運転をする巧さんは無論ソフトドリンクだ。
人数分のドリンクが配られたところで、社長が意気揚々と声を上げる。
「じゃあ、家族が一人増えたことに。乾杯!」
どうやら歓迎されているようだ。私はほっと息を吐く。こんな一般市民の女でいいだなんて、頭の柔らかいご両親でよかった。
冷えたシャンパンを喉に流し込むと、上品な香りが鼻を抜けて唸る。酒好きなのでたまらない味だった。ああ、これをオーウェンのDVDでも見ながら飲めたら最高だった。
「それで、結婚式はどうするの?」
奥様が笑顔で早速突っ込んでくる。私は無言で隣の巧さんをチラリと見上げた。彼は飄々と告げる。
「ゆっくり考える。今すぐには考えてない」
「ええ? そうなの?」
「先に籍を入れて暮らしはじめてからゆっくり計画立てる。父さんは分かってると思うけど今仕事が忙しくて中々休みもとれないんだ」
淡々とそう述べた彼に、奥様は食いついた。
「なんとか調整してちゃんと挙げた方がいいわ。色んな方達にもご連絡しなくちゃだし、杏奈さんのご両親だって……」
「一生に一度しかないんだ。時間に追われて色々準備したくないんだよ。ちゃんと落ち着いた時に、しっかり二人で話し合って計画立てたいんだ」
奥様が黙った。私は感心した顔で隣を見る。
上手い言い方だな。さすが藤ヶ谷グループ副社長、こんな言い方をされれば誰も文句言えまい。
社長も安心したように呟いた。
「ちゃんと杏奈さんの事も考えられてるんだな、安心したよ」
「当然だろ?」
「うん、なら仕方ない。ゆっくり二人で相談して、仕事の調整もしながら考えなさい」
上手く丸め込めた! 私はテーブルの下でガッツポーズを取る。
こんなにイケメンな発言をしておきながら少ししたら離婚するだなんてちょっとマヌケだけどね、仕方ない。
凛とした横顔を盗み見る。悔しいほどに高い鼻を眺めながら、この人と形だけでも結婚するのかぁなんて、今更ながら実感が沸いた。
感心したように樹くんが呟く。まあ、契約上の結婚ですからね。私は心の中で呟く。
「大丈夫? うちの兄、細かいし性格悪いけど」
「樹」
すぐに巧さんが止めに入る。しかし私はつい笑ってしまった。それを巧さんに睨まれる。
「ええ、大丈夫です」
「ふーんならよかった。ずっと忘れられない女がいるって言ってたから結婚なんてしないかと思った」
サラリと下した爆弾発言に、一瞬空気が固まる。このタイミングでそれを投下した彼に、なるほど兄弟仲が悪いというのは本当らしいと理解した。
無邪気な顔をしながら、少し悪意の込められたコメント。よっぽどお兄さんが嫌いなのだろうか。
「樹、いい加減」
「ええ、存じ上げています」
怒りの声を発した巧さんに被せるように、私は声をあげた。みんなが注目したのがわかる。
ニコリと笑う。大丈夫、こういうシーンは勉強済みだ。
なぜならオーウェンにも兄弟仲の悪い弟がいるから!!
「過去の話は巧さんから聞いたことあります。でも私は気にしません。私たちは過去ではなく未来を生きていきますから」
とにかく夫となる人を建てねばならない。別に巧さんを攻略するわけではないが、契約上しっかり妻を演じなくては。
隣の巧さんが少し驚いたようにこちらを見た。奥様はほうっと息を漏らして微笑む。
「ええ、ええそうね。素晴らしいわ。樹、変なことを言うのはおよしない、杏奈さんに失礼でしょう」
「はーい。すみませんでした」
樹くんは含みのある笑いを浮かべながら素直に引き下がった。大人しく黙る。
話題を変えるように、社長が声をあげた。
「では、まずは乾杯でもしよう、杏奈さんシャンパンでいいかな」
「ええ、ありがとうございます」
ちょうどやってきて定員に、社長ドリンクを注文する。すぐに冷えたシャンパンが運ばれてきた。車の運転をする巧さんは無論ソフトドリンクだ。
人数分のドリンクが配られたところで、社長が意気揚々と声を上げる。
「じゃあ、家族が一人増えたことに。乾杯!」
どうやら歓迎されているようだ。私はほっと息を吐く。こんな一般市民の女でいいだなんて、頭の柔らかいご両親でよかった。
冷えたシャンパンを喉に流し込むと、上品な香りが鼻を抜けて唸る。酒好きなのでたまらない味だった。ああ、これをオーウェンのDVDでも見ながら飲めたら最高だった。
「それで、結婚式はどうするの?」
奥様が笑顔で早速突っ込んでくる。私は無言で隣の巧さんをチラリと見上げた。彼は飄々と告げる。
「ゆっくり考える。今すぐには考えてない」
「ええ? そうなの?」
「先に籍を入れて暮らしはじめてからゆっくり計画立てる。父さんは分かってると思うけど今仕事が忙しくて中々休みもとれないんだ」
淡々とそう述べた彼に、奥様は食いついた。
「なんとか調整してちゃんと挙げた方がいいわ。色んな方達にもご連絡しなくちゃだし、杏奈さんのご両親だって……」
「一生に一度しかないんだ。時間に追われて色々準備したくないんだよ。ちゃんと落ち着いた時に、しっかり二人で話し合って計画立てたいんだ」
奥様が黙った。私は感心した顔で隣を見る。
上手い言い方だな。さすが藤ヶ谷グループ副社長、こんな言い方をされれば誰も文句言えまい。
社長も安心したように呟いた。
「ちゃんと杏奈さんの事も考えられてるんだな、安心したよ」
「当然だろ?」
「うん、なら仕方ない。ゆっくり二人で相談して、仕事の調整もしながら考えなさい」
上手く丸め込めた! 私はテーブルの下でガッツポーズを取る。
こんなにイケメンな発言をしておきながら少ししたら離婚するだなんてちょっとマヌケだけどね、仕方ない。
凛とした横顔を盗み見る。悔しいほどに高い鼻を眺めながら、この人と形だけでも結婚するのかぁなんて、今更ながら実感が沸いた。