3次元お断りな私の契約結婚
「……ごめん、待てない。
 杏奈の部屋、行っていい?」

 言いづらそうに言っていた巧に、ぼっと私の顔は赤面した。

 昨晩樹くんがきたことにより遂行出来なかった夜を、私たちはようやく迎えることができる。だってここは邪魔者なんていない、二人の家だから。

 『一つ屋根の下に暮らしてながら何をしてんだ』とおっしゃいました麻里ちゃん、ようやく杏奈は大人の階段を登るようです。

 ドキドキしながら、頷こうとした時だった。



 …………待て、私の部屋、だと??



 一気にサーッと血の気が引いた。床に散らばったゲームソフトやDVD。それだけならまだいい。

 綺麗に配置されたフィギュア、毎日挨拶をするポスターたち、極め付けが私のベッドにはもう他の男が寝ている。(オーウェンの抱き枕)

 私はあんな部屋で事に及ぶつもりなのか? ええ?



「絶対ダメ」

 自分の口から漏れたのはそんな低い声だった。

 絶対に巧に引かれちゃう、それを断固として避けたいが故でた言葉だった。

 が、巧は私の言葉を聞いた途端ピタリとフリーズした。さっきまでの熱意はどこへやら、彼はただ停止していた。

……ってしまった! 私はバカか、言い方ってもんがある!

 巧がわかりやすく停止しているのに気づいた私はアタフタと慌てた。絶対ダメっていうのは、私の部屋に入ることであって、別に巧自身を拒絶しているわけではないのに!

「あ、たく」

「そ、うか、分かった」

 私がフォローしようと声を出すが、巧の耳には入っていないようだった。彼は気まずそうに視線を落とし、そのままふいっと顔を背けて私の隣を通り抜けた。

「あ、ちょ、待っ」 

「今日は疲れてる、しな、うん」

 慌てて巧の背中に声をかけるも、巧は振り返らなかった。もはや意気消沈している様子でそのままフラフラと隣の巧の部屋へと入っていってしまったのだ。

 やらかした。盛大にやらかした。

 私はその場にしゃがみ込んで頭を抱える。そりゃ巧も驚くよ、昨日の夜は進めそうだったのに今日になった途端強く拒否られちゃ。いい年した大人の男女が未だキス止まりなんてありえないのに。

 どうしよう。でも今更どう説明すればいいんだ。恋愛初心者の私はそんなことすらわからない。

 玄関にたくさん積まれたままのお土産たちを見てただただ自分の適応力のなさに呆れた。誰か私を殴り倒してほしい。




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