3次元お断りな私の契約結婚
真実は
人間、キャパシティを超えるとただ呆然とするらしい。
私は今聞こえたセリフが理解できず、ただばかみたいに口を開けたまま安西さんを見ていた。反して彼女は涼しい顔でにっこり微笑み、腹部を撫でている。
妊娠?
ぽっこりとしているお腹を見下ろした。なぜ初めに気づかなかったんだと呆れるくらい、それは大きな腹部だった。
「はあ? 妊娠って……何言ってんだあんた」
反応したのは私ではなく隣の樹くんだった。
「もう六ヶ月です」
「はあ? 六ヶ月……!?」
「ふふ、驚かせてしまいましたよね。無理もありません」
頭の中がぐるぐると回って混乱する。何を言えばいいのか、何をきけばいいのか。情けないことに、私は感情すら失ってしまっていた。
巧の子供を、この人が宿している……?
「つき、あっていたんですか、巧と……」
最初に出たセリフはそれだった。
だが、安西さんはふふっと小さく笑う。
「いいえ。正式にお付き合いしていたわけじゃありません」
「え……」
「巧さんって、特定の恋人を作らないことで有名でしたから。だから結婚の知らせを聞いて驚きました、どうやってこぎつけたんです? 妊娠ではなさそうですね?」
安西さんは私の足元を見てそう言った。私の足はヒールを履いている。
そりゃそうだよ、私が妊娠してるわけがない。だって、巧とはそんな関係ですらないから。
ただ呆然と安西さんを見た。でも、この人とはそう言う関係だったんだ。
私の顔を見て、安西さんは微笑む。かばんから小さなメモを取り出して私に差し出した。
「今日は驚いて会話にならなそうですね。まあ当然のことです。頭の中が整理できたらまたご連絡いただけますか? いいお返事をお待ちしています」
何も言い返さずメモを受け取る。電話番号が記されていた。
「まあ……答えは決まっていますよね。だって、子供がいるんですから。ね?」
安西さんにそう言われ、何も言い返せなかった。樹くんがカッとなったようにして言う。
「突然きてなんだあんた……! 妊娠してたならなんでもっと早く言ってこなかったんだよ、今更になって……! 本当に巧の子かよ!」
「堕ろせ、だなんて言われないようにですよ」
安西さんは冷たい声で言った。樹くんも言葉をなくす。
三人沈黙が流れた。真顔になった安西さんが色の無い目で私をじっと見ている。威圧感のあるその眼力に、私は何も言えなかった。
安西さんは再びにっこり笑った。そして私に背を向けて歩き出したが、すぐに思い出したように振り返って言った。
「藤ヶ谷グループの跡取り、彼のお父さん早く欲しくて仕方ないみたいですね?」
それを聞いて樹くんが怒ったように安西さんに何かを言おうとしたが、私は黙って彼を止めた。相手は妊婦だ、それに妊娠しているのならその父親に認知を求めるのはごくごく当たり前の権利。安西さんに怒りをぶつけるのはおかしい。
「杏奈ちゃん……!」
「またご連絡します、すみません」
私が色のない声で答えると安西さんは頷いた。そしてゆっくりとした歩調でそこから歩き去っていく。
ぼんやりとその後ろ姿を見ていた。怒りだとか悲しみだとか、そういうものよりただショックだった。
巧の、子。
そう思ったと同時にふわりと体から力が抜けて倒れそうになる。それを樹くんがタイミングよく支えてくれた。慌てたような声が耳に入ってくる。
私は今聞こえたセリフが理解できず、ただばかみたいに口を開けたまま安西さんを見ていた。反して彼女は涼しい顔でにっこり微笑み、腹部を撫でている。
妊娠?
ぽっこりとしているお腹を見下ろした。なぜ初めに気づかなかったんだと呆れるくらい、それは大きな腹部だった。
「はあ? 妊娠って……何言ってんだあんた」
反応したのは私ではなく隣の樹くんだった。
「もう六ヶ月です」
「はあ? 六ヶ月……!?」
「ふふ、驚かせてしまいましたよね。無理もありません」
頭の中がぐるぐると回って混乱する。何を言えばいいのか、何をきけばいいのか。情けないことに、私は感情すら失ってしまっていた。
巧の子供を、この人が宿している……?
「つき、あっていたんですか、巧と……」
最初に出たセリフはそれだった。
だが、安西さんはふふっと小さく笑う。
「いいえ。正式にお付き合いしていたわけじゃありません」
「え……」
「巧さんって、特定の恋人を作らないことで有名でしたから。だから結婚の知らせを聞いて驚きました、どうやってこぎつけたんです? 妊娠ではなさそうですね?」
安西さんは私の足元を見てそう言った。私の足はヒールを履いている。
そりゃそうだよ、私が妊娠してるわけがない。だって、巧とはそんな関係ですらないから。
ただ呆然と安西さんを見た。でも、この人とはそう言う関係だったんだ。
私の顔を見て、安西さんは微笑む。かばんから小さなメモを取り出して私に差し出した。
「今日は驚いて会話にならなそうですね。まあ当然のことです。頭の中が整理できたらまたご連絡いただけますか? いいお返事をお待ちしています」
何も言い返さずメモを受け取る。電話番号が記されていた。
「まあ……答えは決まっていますよね。だって、子供がいるんですから。ね?」
安西さんにそう言われ、何も言い返せなかった。樹くんがカッとなったようにして言う。
「突然きてなんだあんた……! 妊娠してたならなんでもっと早く言ってこなかったんだよ、今更になって……! 本当に巧の子かよ!」
「堕ろせ、だなんて言われないようにですよ」
安西さんは冷たい声で言った。樹くんも言葉をなくす。
三人沈黙が流れた。真顔になった安西さんが色の無い目で私をじっと見ている。威圧感のあるその眼力に、私は何も言えなかった。
安西さんは再びにっこり笑った。そして私に背を向けて歩き出したが、すぐに思い出したように振り返って言った。
「藤ヶ谷グループの跡取り、彼のお父さん早く欲しくて仕方ないみたいですね?」
それを聞いて樹くんが怒ったように安西さんに何かを言おうとしたが、私は黙って彼を止めた。相手は妊婦だ、それに妊娠しているのならその父親に認知を求めるのはごくごく当たり前の権利。安西さんに怒りをぶつけるのはおかしい。
「杏奈ちゃん……!」
「またご連絡します、すみません」
私が色のない声で答えると安西さんは頷いた。そしてゆっくりとした歩調でそこから歩き去っていく。
ぼんやりとその後ろ姿を見ていた。怒りだとか悲しみだとか、そういうものよりただショックだった。
巧の、子。
そう思ったと同時にふわりと体から力が抜けて倒れそうになる。それを樹くんがタイミングよく支えてくれた。慌てたような声が耳に入ってくる。