3次元お断りな私の契約結婚
「杏奈ちゃん、大丈夫!?」
「……ごめ」
「あいつ……ふざけんなよ、何考えてんだよ!」
私と反して樹くんは険しい顔で叫んだ。冷静にそれを止める。
「安西さんは悪いわけじゃ」
「あの女じゃないよ! いやあの女もムカつくけど!
巧だよ、他の女孕ませて何やってんだよ!」
樹くんの腕は怒りで震えていた。顔も真っ赤になっている。
「そんな、結婚する前のことだから……半年前なら巧とは出会ってもないし」
そう、妊娠六ヶ月ならば巧が浮気していたというわけではない。私と出会う前にあったことだ。
だが、樹くんは険しい顔をして私を見た。
「え? 一年付き合ってたんでしょ?」
そう聞いてはっとした。
しまった、そういう設定だった……! 私は今更慌てて口を両手で押さえる。あまりの展開に冷静さを欠いている。
樹くんはじっと私の顔を見ていた。その真っ直ぐな視線が、全て見抜かれている気がした。
私は彼から顔を背ける。
「杏奈ちゃん?」
「……ごめん、今混乱してるの。何も聞かないで」
うまい言い訳すら思いつかなかった。ただ脳内は真っ白でなんの処理も行えない。フリーズしたパソコン画面のようだ。
樹くんは何か言いかけたが、すぐに黙り込んだ。私は無言でただアスファルトを見つめていた。
あの人が巧の子供を妊娠している。あまりにショックが大きいこの事実だが、私の心の中ではやや違う方向に意識が逸れていた。
形式上だけでも巧と結婚していて、まだ日は浅いけどキチンと付き合っている。それなのに私はくだらないことで巧からの誘いを断って未だ一線を越えられていない。
でもあの人は付き合ってもないのにちゃんと巧と男女の関係になれたんだ。
よくわからない劣等感だった。ただ、私には無理であの人はできたんだ、という謎の気持ちが胸にいっぱい広がっていた。
「……あ、安西唯って、思い出した!」
樹くんがはっとしたように言う。
「安西グループの令嬢だ!」
「安西グループ……? って、あの?」
「そうだよ、うん。巧と見合いしてたはずだよ」
「お見合い……」
そうだ、出会った頃巧は言っていた。私と会う前に何人も見合いや食事を取ったこともあるって。その相手だったんだ……。
樹くんは頭を掻く。
「はあ……そんな相手か」
「むしろ、私より相応しい家柄の人なんじゃ……」
「馬鹿なこと言わない方がいい、杏奈ちゃんが一番に決まってる」
私は力の入らない足でなんとか地面を踏みつける。そして樹くんに向き直った。
「今日、私から巧には言うから……樹くんは何もいわないでね」
「でも……! どうするつもりなの、あの女なかなか引き下がらなそうだったよ?」
心配そうに私を見てくる彼に、形だけ口角を上げて見せた。
「本当に子供がいるなら……引き下がるのはどっちが相応しいか分かる」
「杏奈ちゃん!」
そもそも、私と巧は確かに結婚している。でもそれは元々は契約上のことで、その後から付き合いだしただけのこと。私たち二人の歴史はあまりに浅い。
険しい顔をしている樹くんにもう一度釘をさす。
「ちゃんと今日、巧と話すから。樹くんは待っててね。これは私たちの問題だから」
何かいいかけるも、彼は黙り込んだ。
「……ごめ」
「あいつ……ふざけんなよ、何考えてんだよ!」
私と反して樹くんは険しい顔で叫んだ。冷静にそれを止める。
「安西さんは悪いわけじゃ」
「あの女じゃないよ! いやあの女もムカつくけど!
巧だよ、他の女孕ませて何やってんだよ!」
樹くんの腕は怒りで震えていた。顔も真っ赤になっている。
「そんな、結婚する前のことだから……半年前なら巧とは出会ってもないし」
そう、妊娠六ヶ月ならば巧が浮気していたというわけではない。私と出会う前にあったことだ。
だが、樹くんは険しい顔をして私を見た。
「え? 一年付き合ってたんでしょ?」
そう聞いてはっとした。
しまった、そういう設定だった……! 私は今更慌てて口を両手で押さえる。あまりの展開に冷静さを欠いている。
樹くんはじっと私の顔を見ていた。その真っ直ぐな視線が、全て見抜かれている気がした。
私は彼から顔を背ける。
「杏奈ちゃん?」
「……ごめん、今混乱してるの。何も聞かないで」
うまい言い訳すら思いつかなかった。ただ脳内は真っ白でなんの処理も行えない。フリーズしたパソコン画面のようだ。
樹くんは何か言いかけたが、すぐに黙り込んだ。私は無言でただアスファルトを見つめていた。
あの人が巧の子供を妊娠している。あまりにショックが大きいこの事実だが、私の心の中ではやや違う方向に意識が逸れていた。
形式上だけでも巧と結婚していて、まだ日は浅いけどキチンと付き合っている。それなのに私はくだらないことで巧からの誘いを断って未だ一線を越えられていない。
でもあの人は付き合ってもないのにちゃんと巧と男女の関係になれたんだ。
よくわからない劣等感だった。ただ、私には無理であの人はできたんだ、という謎の気持ちが胸にいっぱい広がっていた。
「……あ、安西唯って、思い出した!」
樹くんがはっとしたように言う。
「安西グループの令嬢だ!」
「安西グループ……? って、あの?」
「そうだよ、うん。巧と見合いしてたはずだよ」
「お見合い……」
そうだ、出会った頃巧は言っていた。私と会う前に何人も見合いや食事を取ったこともあるって。その相手だったんだ……。
樹くんは頭を掻く。
「はあ……そんな相手か」
「むしろ、私より相応しい家柄の人なんじゃ……」
「馬鹿なこと言わない方がいい、杏奈ちゃんが一番に決まってる」
私は力の入らない足でなんとか地面を踏みつける。そして樹くんに向き直った。
「今日、私から巧には言うから……樹くんは何もいわないでね」
「でも……! どうするつもりなの、あの女なかなか引き下がらなそうだったよ?」
心配そうに私を見てくる彼に、形だけ口角を上げて見せた。
「本当に子供がいるなら……引き下がるのはどっちが相応しいか分かる」
「杏奈ちゃん!」
そもそも、私と巧は確かに結婚している。でもそれは元々は契約上のことで、その後から付き合いだしただけのこと。私たち二人の歴史はあまりに浅い。
険しい顔をしている樹くんにもう一度釘をさす。
「ちゃんと今日、巧と話すから。樹くんは待っててね。これは私たちの問題だから」
何かいいかけるも、彼は黙り込んだ。