3次元お断りな私の契約結婚
「まだ話してないの?」
図星。ゆっくり俯いた。
「ごめん、ちょっとタイミングがなくて……」
「いや、言いにくいのはわかるけど」
そう言いかけた樹くんがふと、ダイニングテーブルの上にある緑の用紙に気がついた。驚いたように目を丸くし、それを手に取った。
「……離婚、するの?」
返事ができなかった。しばらくそのまま沈黙が流れる。樹くんは持っていた離婚届をそっと置き、私に詰め寄った。
「離婚するの? 巧と?」
「……だって、そうするしかないよね。相手巧の子供妊娠してるんだよ?」
「そりゃそこの問題は大きいけど! だからって……いや、待って。杏奈ちゃんが離婚したいっていうならしょうがない。他の女孕ませるなんてそりゃ別れたくもなる」
樹くんはぶつぶつと一人でつぶやいた。そして意を決したように私に尋ねる。
「ねえ、この前言ってたこと。どういうことなの、本当は付き合ってる期間なんかなかったの?」
聞かれると覚悟していた質問をぶつけられた。
設定では巧とは一年付き合って入籍したことになっている。でも実際は違う。契約上の結婚で、その後私たちは付き合いだした。まだ浅い関係なのだ。
今まで必死に樹くんに隠してきたが、ここまで来てしまってもう無理だと思った。それに今更バレてももう構わない。私は諦めて真実を言う。
「前樹くんが言ってたみたいに……私たち、初めは契約結婚だったの」
「は」
「私は祖母が終末期で安心させたかったし、巧はとにかくご両親からの結婚の圧をなんとかしたかったって。二人納得して入籍した。ルームシェアしてただけだったの」
樹くんはぽかんとしたまま棒立ちになっていた。彼ならこんな答え予想しているかと思っていたのだが、どうやら想定外だったらしい。
「え、でもだって、二人仲良く……」
「それから付き合い出したの。付き合うっていうのも変な言い方だけどね。巧が事故にあった頃からようやくだよ」
「う、うそでしょ……?」
頭を抱えて理解に苦しんでいた。普通はそうなるか。私は苦笑する。
「だからね、巧は安西さんと私を被らせていたわけじゃないし。私と巧の歴史もすごく浅いの」
「だから……離婚するってこと?」
私は黙り込んだ。なんて答えていいか分からなかった。
巧とまだ話せていないけれど、これ以外の結論が私には浮かばないのだ。
「出張から帰ってきたら、ちゃんと話さなきゃ。子供は今も育ってるんだもんね」
ポツリと呟き苦笑いした。
樹くんは何も答えず、ただ黙って私を見ていた。その真っ直ぐな視線が苦しくて目を逸らす。
「ごめんね、騙してて」
「……俺今日ここ泊まるから」
謝った私に対しての返事はなぜかそれだった。驚いて顔をあげる。
「え?」
「だってまだ俺は義弟なんだし、別にいいでしょ」
「よ、よくないよ」
「いいじゃん、もう巧とは離婚するんでしょ。なら気にしなくてもいいじゃん」
そう言い捨てた樹くんは、スタスタと歩いてソファにどしんと腰掛けた。私はオロオロと戸惑う。
確かに離婚するなら巧の言いつけを守る必要もないかもしれない。でも勝手に泊まらせるのもなあ……。私の家でもないし。
困っている私に、樹くんがさらに言った。
「巧とルームシェアできてたなら俺でもいいじゃん。寝るときは巧の部屋で寝るから。いやだけど」
「え、ええ……」
「ところで杏奈ちゃんまだご飯食べてないんじゃない? 準備しておいでよ、ご飯行こう」
頑なに帰ろうとしない樹くんに、私も折れた。もう彼を追い返すだけの力が残っていないというのもある。
正直食欲もまるでないのだが、断るのも面倒で私は無言で自室へ入っていった。
図星。ゆっくり俯いた。
「ごめん、ちょっとタイミングがなくて……」
「いや、言いにくいのはわかるけど」
そう言いかけた樹くんがふと、ダイニングテーブルの上にある緑の用紙に気がついた。驚いたように目を丸くし、それを手に取った。
「……離婚、するの?」
返事ができなかった。しばらくそのまま沈黙が流れる。樹くんは持っていた離婚届をそっと置き、私に詰め寄った。
「離婚するの? 巧と?」
「……だって、そうするしかないよね。相手巧の子供妊娠してるんだよ?」
「そりゃそこの問題は大きいけど! だからって……いや、待って。杏奈ちゃんが離婚したいっていうならしょうがない。他の女孕ませるなんてそりゃ別れたくもなる」
樹くんはぶつぶつと一人でつぶやいた。そして意を決したように私に尋ねる。
「ねえ、この前言ってたこと。どういうことなの、本当は付き合ってる期間なんかなかったの?」
聞かれると覚悟していた質問をぶつけられた。
設定では巧とは一年付き合って入籍したことになっている。でも実際は違う。契約上の結婚で、その後私たちは付き合いだした。まだ浅い関係なのだ。
今まで必死に樹くんに隠してきたが、ここまで来てしまってもう無理だと思った。それに今更バレてももう構わない。私は諦めて真実を言う。
「前樹くんが言ってたみたいに……私たち、初めは契約結婚だったの」
「は」
「私は祖母が終末期で安心させたかったし、巧はとにかくご両親からの結婚の圧をなんとかしたかったって。二人納得して入籍した。ルームシェアしてただけだったの」
樹くんはぽかんとしたまま棒立ちになっていた。彼ならこんな答え予想しているかと思っていたのだが、どうやら想定外だったらしい。
「え、でもだって、二人仲良く……」
「それから付き合い出したの。付き合うっていうのも変な言い方だけどね。巧が事故にあった頃からようやくだよ」
「う、うそでしょ……?」
頭を抱えて理解に苦しんでいた。普通はそうなるか。私は苦笑する。
「だからね、巧は安西さんと私を被らせていたわけじゃないし。私と巧の歴史もすごく浅いの」
「だから……離婚するってこと?」
私は黙り込んだ。なんて答えていいか分からなかった。
巧とまだ話せていないけれど、これ以外の結論が私には浮かばないのだ。
「出張から帰ってきたら、ちゃんと話さなきゃ。子供は今も育ってるんだもんね」
ポツリと呟き苦笑いした。
樹くんは何も答えず、ただ黙って私を見ていた。その真っ直ぐな視線が苦しくて目を逸らす。
「ごめんね、騙してて」
「……俺今日ここ泊まるから」
謝った私に対しての返事はなぜかそれだった。驚いて顔をあげる。
「え?」
「だってまだ俺は義弟なんだし、別にいいでしょ」
「よ、よくないよ」
「いいじゃん、もう巧とは離婚するんでしょ。なら気にしなくてもいいじゃん」
そう言い捨てた樹くんは、スタスタと歩いてソファにどしんと腰掛けた。私はオロオロと戸惑う。
確かに離婚するなら巧の言いつけを守る必要もないかもしれない。でも勝手に泊まらせるのもなあ……。私の家でもないし。
困っている私に、樹くんがさらに言った。
「巧とルームシェアできてたなら俺でもいいじゃん。寝るときは巧の部屋で寝るから。いやだけど」
「え、ええ……」
「ところで杏奈ちゃんまだご飯食べてないんじゃない? 準備しておいでよ、ご飯行こう」
頑なに帰ろうとしない樹くんに、私も折れた。もう彼を追い返すだけの力が残っていないというのもある。
正直食欲もまるでないのだが、断るのも面倒で私は無言で自室へ入っていった。