3次元お断りな私の契約結婚






「あーお腹すいた! 杏奈ちゃんどれにする?」

 樹くんと近くのファミレスに来た私たちは、メニューをのぞきこんでいた。
  
 なんだかんだ、樹くんと二人での食事は初めてのこと。でも何回も会っているし、今更緊張なんかしなかった。

 私はお腹も空いていないので、適当に一番安いパスタを指差す。

「じゃあこれで」

「オッケー。お酒も飲んだら?」

「え?」

「せっかくだし」

 ドリンクメニューを見せられ、少し迷った挙句ビールを頼んだ。樹くんも同じように頼む。

 しばらくして店員がまずビールを持ってきた。まだ昼間だと言うのに、私たちはそれを思い切り飲み込む。

 冷たい独特の喉越しが少し気分をよくさせた。ふうと一つ息を吐く。

「杏奈ちゃんお酒強いんだっけ?」

「普通、かな」

「はは、普通って自分で言う人は結構強い人だよ。ほらどんどんお変わりしちゃえ!」

 栗毛色の髪を揺らしながら樹くんが笑った。犬みたいな彼をみて、本当にこの子って根はいい子だよなあ、と思ったりする。

 わかってる。樹くんなりの励ましなんだってこと。

 冷えたグラスを両手で包んだ。巧の顔が思い浮かびそうになったのを必死に拒否するようにビールを飲み込む。

「いい飲みっぷり! すみませーんビールもう一つ!」

 樹くんが笑いながらそう注文してくれた。

 店員がすぐに新しいビールを持ってきてくれるのをぼんやり眺めながら思う。

 ああ、樹くんと二人になるなっていうのも、飲みすぎるなっていうのも、約束破りまくり……。

 そういえば巧とファミレスなんてきたことなかった。最近ようやくデートらしいデートをするようになってて、それでも数はまだまだ少ない。平日は時間も合わないし、休日も家でゆっくりすることも多かった。

 巧とファミレスとか来たら、面白かったかな。

「どっか行きたいとこない?」

 樹くんが私の顔を覗き込んできた。

 はっとして考える。

「え、どこだろう……」

「映画とかでもいいし、カラオケとかボーリング?」

 ニコニコと笑いながら聞いてくる樹くんに、あれいつのまに遊びに行くことになってたんだろう、と思う。泊まるってなっても遊びに行くだなんて……

「そうだ、買い物でも付き合ってくれない? こう言う時はお金パーっと使ってスッキリしなきゃね!」

 樹くんはそう決定した。私が口を挟む暇もない。何かを言おうとしたけれど、その時ちょうど注文した料理が運ばれてきてしまい、完全に反論するタイミングをなくしてしまった。

 彼は運ばれてきた料理を美味しそうに口をつけた。仕方なしに私も少しずつ食べていく。

 ビールは液体だからかスルスルと入ったけれど、固形となるとやはりあまり進まない。私は必死にパスタを巻いて口に運ぶが、胃袋がすぐに悲鳴を上げていく。

 困ってしまった私に気づいているのか、樹くんが食べながら言った。

「食べれるもの食べれる分だけ食べればいいよ」

「え……」

「またお腹空いたら何か食べればいいんだからさ。あ、アルコールで胃を痛まない程度にね」

 優しいその声に少しだけ俯いた。
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