3次元お断りな私の契約結婚
 まだ半分以上残っているパスタは、それ以上手をつける事なく残ってしまった。

 かわりにまたアルコールを水のように飲んでいく。酔いが回る様子は全く無く、ただ喉を潤すようにグイグイと飲みつづけた。

 樹くんはそんな私に何も言わず、時々笑って明るい話をしてくれた。彼も何度かアルコールをおかわりしていく。やっぱりあの旅館では酔ったフリしてたんだな、と今更ながら思った。

 しこたまビールを飲みまくった後、私たちはファミレスを後にした。その足で樹くんはタクシーを呼び街へと向かっていく。いつだったか、巧と映画を見にきた街だった。

 タクシーを降りてどうしていいか分からない私を、樹くんは上手く誘導してくれた。それはまるで、デートしている男女のようだった。







 買い物に付き合って、と言ったくせに、樹くんが足を踏み入れるのはレディースのお店ばかりだった。

 服やアクセサリー、カバンに靴。多くが並ぶお店は、高すぎず安すぎず、足を踏み入れやすいお店だった。

「杏奈ちゃんどんなのが好み? 色とかさ」

 そこいらにある適当な服を手に取りながら樹くんが聞いてきた。

「え、なんだろう、あまり考えたことないっていうか。店員さんに勧められるのを買ったり……」

「ブランドはどこが好き?」

「(ブランドより二次元が好きなので)あまり興味ないかな」

「ふーん、意外だね。こう、いつもビシッとした感じなのに」

 樹くんは何か考えながらじっと洋服を見ている。私はといえば、買い物をする気なんか起きなくて困っていた。

 さすがに今は、オーウェンの限定グッズが目の前に売っていたとしてもテンションは上がらないと思う。

 樹くんが選んでいるのをただぼうっと眺めていると、彼が振り返って笑いかけた。

「こっちとこっち、どっちが好み?」

「え? ええと……こっちかなあ」

 差し出されたスカート二枚を見て選ぶ。ふんふんと樹くんは納得する。

「じゃあこれとこれは?」

「これ、かなあ」

「靴はこれとこれなら?」

「まあ、これ?」

「うんうん。オッケーオッケー。じゃあこういうの好き?」

 樹くんが出してきた服を見た。どちらかといえば私がよく着ている服のテイストに似ている。

 私は頷いた。

「うん、可愛いと思う」

「あーやっぱりね。こういう系が好みなんだね、よく似合うと思うよ。杏奈ちゃん顔立ちからしてふわっとした色よりパキッとしたやつのが絶対似合うし。ほら」

 どこかの店員だろうか? 樹くんは私の体にワンピースを重ねた。

「丈もいいし動きやすいと思うよ、これ似合ってる」

「そ、うかな」

「はい、決まりー」

 なんとスムーズなチョイスか。しかも私の好みも配慮しながら似合うものを選んでくれるとは。素直に感心してしまった。
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