3次元お断りな私の契約結婚
 私は視線から逃れるように顔を背けて笑った。

「そうはいかないよ」

「なんで」

「樹くんに彼女とかできたら大変だよ」

「言ってる意味分からない?
 俺にしておきなよって言ってるんだよ」

 全身がこわばった。

 ピクリとも動けず硬直する。

 待って、それはどういう意味で言ってるの? また悪ふざけ? 巧への嫌がらせ?

 混乱の絶頂にいる私の頬に、樹くんが手を伸ばした。熱い指先が触れて心臓がドキンと鳴る。

 その手が無理矢理私の顔を彼に向けさせた。至近距離にある樹くんの顔にまたしても心臓が鳴る。私の顔を見て、僅かに口角を上げた。

「まずはルームシェアからでいいよ」

「い、いや……」

「俺のところにおいで。絶対、悲しませるようなことはしないから。楽しませるから」

 目の前の彼は、本気でそんなことを言っているんだろうか。


 巧と離婚となればここを出ていかねばならない。新居を探して、また新たに生活を始める必要がある。

 確かに樹くんはいい子だし面白い。今日だってどっかの誰かとは違ってスムーズにリードしてくれるし楽しく一日過ごせた。

 なんとなくだけど、樹くんとなら楽しくルームシェアできそうだと思った。

 そしてこのマンションには安西さんがきて……



 ふ、と脳内が止まった。



 安西さんがここにきて、巧と暮らすんだろうか。私たちが笑いながらチキン南蛮を食べたあの椅子とテーブルで食事を取る?

 並んでテレビを見たソファに二人で座る?

 カレーを作ったり、巧が料理してくれたりしたキッチンで今度はあの女性が料理するんだろうか


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