ふたりきりなら、全部、ぜんぶ。
一瞬渚に呼ばれた気がしたけど、そのあと聞こえた凛とした声に、そのことはどこかへ飛んで行ってしまった。
「偶然だね、那咲も……」
買い物?
そう聞こうとしたけれど。
「那咲……?」
なぜかカッと目を見開いたまま、私の顔……じゃなくて、渚と私の間のある一点を見つめている。
「えっ……え!?
むぎ、久遠のことさわれて……しかもその指輪……っ」
あ、そうだ。
プロポーズされたことは言ったけど、指輪をもらったこと、同居してることはまだ伝えてなかった。
「あのね、那咲。実は……」
「あっ!やっと見つけた森山!
どこ行ったかと思っ……て、え、渚?と……むぎちゃんっ!?」
「碧(みどり)」
「土方(ひじかた)くん!」
パーマがかかったキャラメル色の髪がトレードマークで、いつも明るくてハイテンションな土方碧くん。
那咲や私たちと小学校からの同級生で、今は渚と同じ水篠。
にしても、どうしてふたりがいっしょに?
聞こうとする間もなく、
「えっ、は!?
なんでそんなにくっついてんの!?」
いつもより何倍も目を輝かせて渚と私を交互に見る土方くん。
「碧」
「もしかして、やっとむぎちゃんと付き合えたの!?
めっちゃおめでとうじゃん!」
「碧」
「え、しかも指輪までしてるし、え!?ほんとどういうこと……」
「おい、碧!」
「なに……って、え、なんでそんな人殺しそうな目で俺のこと見てんの?」
「な、渚?」
めちゃくちゃ眉間にシワ寄ってるし、どうして土方くんのこと睨んでるの!?
「土方……あんた、さっきから久遠の地雷踏みすぎよ」
「は?地雷って……」
ヤレヤレとため息をついた那咲に、渚の低い声が加わる。
「おまえ、そのむぎちゃんって呼び方やめろって前から言ってんだろ。次言ったらはっ倒す」
「それは悪かったって!
けどそのカーディガン、渚のだろ?しかもその指輪もなに!?ペアリングだろ!?」
「土方くん……!」
声大きすぎだって!
ここスーパーだから!
教室じゃないから!
いろんな人がこっち見てるから!
「はーい、土方そこまで。
むぎも久遠も、邪魔してごめん。
むぎ、明日ぜんぶ聞かせてもらうから」
「はーい……」
「森山」
「なに?」
「碧のこと任せた」
「任せなさい」