ふたりきりなら、全部、ぜんぶ。


「じゃあ、私が野菜切る担当で、渚が……」

「あ、ちょいまち、むぎ」


「ん?」


それから無事家に帰ってきて、とりあえずまな板と包丁を出そうと思ったら。


「どうしたの?」

「これ、母さんから」

「なに……って、はあ!?」


なっ、なにこれっ!?

差し出されたのは、メイドさんが着ているような白と黒のフリフリエプロン。

腰はリボンで結ぶタイプになっていて、肩や裾にはレースがぎっしりで。


「なんっ……てか断ってよ!」

「いや、俺だってむぎはこんなの着ないって言ったけど、母さんがどうしてもって」


嘘でしょ!

ぜったい嘘だよね!?


だって渚笑ってるもん!

その顔に書いてあるじゃん、めちゃくちゃ着て欲しいって!


「ううっ、わかったよ……」

「いいの?」


だって汐さんがせっかく用意してくれたものだし、


「うん……」

「やった……っ」


っ、かわいい……。


声を弾ませて、パアッと華が咲いたみたいに笑う表情に胸がキュンとする。

渚が喜んでくれるなら、私にできることはなんだってしてあげたいから。


「むぎっ、」

「リボン!リボン結べないから!」

「俺が結んであげる」


頭を通している隙に抱きついてこようとするから慌てて離れる。


っ、もう……自分でできるって言ってるのに。


「はい、暴れない」


こんなのハグしてるのと一緒だよ!

わざわざ正面から手回さなくてもいいのに、香水の匂いとか、吐息が耳にかかって、ほんと、くすぐったい……っ。


「はい、できた。
ん、見せて」


「やだ……っ、あ、」


「ん、超かわいい。最高」


っ、なんて顔してるの。

頭からつま先までゆっくり見つめられたあと、とびきり甘く目尻を下げて微笑むから、ぼぼっと顔が熱くなる。


「はあ……かわいい。俺の奥さんめちゃめちゃかわいい」

「ううっ……」


後頭部と、腰に深く回った腕。

全身を包むように抱きすくめられて、逃げるに逃げられない。


「ごはん、つくらなきゃ、」

「知ってる。けど、あまりにかわいいから、離したくねーの」


っ、どれだけかわいいって言うの……っ。


でも、あまりに何度もかわいいって言ってくれるから、はずかしいのに強く言えない私もつくづく渚に弱い。
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