ふたりきりなら、全部、ぜんぶ。
目にかかるほどの前髪が今は横に流されて、三日月型の二重の瞳がバッチリ見えていて。
「ふー……こういう窮屈な格好って、あんま得意じゃないけど、いいな」
「なに、が……」
「ん?だってこんな首まで真っ赤にしてさ、俺のこと見てないふりして、見てるのバレバレだから」
「なっ!?」
「こんな最高にかわいい反応してもらえるなら、家でずっとスーツでいようかな」
昨日むぎの家にあいさつ行ったときも、ぽうっとしてたし。
「っ〜〜!!」
そう、今の渚はなんとスーツで。
昨日と同じく、髪もきちんとセットされてて、ネクタイもジャケットまでちゃんと着てる。
「っ、てかお風呂上がりなのに、なんでスーツ着てるのっ!?」
「むぎの緊張とれたらなってのと、喜ぶかと思って。スーツ好きなんだろ?さっきスーパーで、別の男のこと見てたし」
「き、気づいてたの?」
「当たり前。けどスーツ着た1番の理由は、他の男見てたの俺で上書きしたくて」
「っ、それは、」
あの男の人を見てたんじゃなくて、スーツを着た渚のことを思い出してたっていうか……。
ていうか上書きって……。
「俺はいつでもむぎにかっこいいって思われたいし、他の男なんか目に入らないくらい、俺だけ見ててほしい」
いつだってむぎの一番でいたいんだよ。
「っ!!」
まっすぐで真剣な瞳に射抜かれて。
もう緊張とかぜんぶ吹き飛んじゃうくらいの衝撃。
まさか私がお風呂に入ってる間に着替えて、待ってたなんて。
「つーか、むぎさん?」
「な、なに」
「さっきからぜんぜん目が合わないんだけど、なんで?」
「き、気のせいだと思う……」
「いーや?俺の視界にはいつもかわいくて大好きな彼女しか映ってないからそれは200パーない」
「っ……」
なにそれ。
また私ばっかりドキドキさせられてる。
また朝とおんなじ。
言えない。言えるわけない。
カッコよすぎて……。
「直視できない?」
「なっ!?」
なんで分かったの!?
「当たった?あ、やっと目見てくれた。
すっげー嬉しい」
「っ〜〜!!」