ふたりきりなら、全部、ぜんぶ。


「キスしよ。顔あげて」

「や、やっぱナシで!」


「はあ?」


俺がキスしたあと、一瞬ちらりと俺の顔を見たむぎが、


「っ……」


なぜかボンッ!と首まで真っ赤にして、ふいっと顔を背ける。


「いやいや、なんで?
顔見るのも、目見るのも大丈夫ってさっき言ってくれたじゃん」

「そ、それはそうだけど……」


「だけど?」


ちゃんと言え。

包み隠さずちゃんと話せ。


グッと顔を近づければ、うっと言葉を詰まらせる。

いじわるだって分かってるけど、付き合う前からのこれは、やめられない。


だって、むぎのことで知らないことはないようにしたいから。

俺のすべてがむぎのすべて。

俺はむぎがいるから生きてる、もうそれくらい重い。


「ジャケットとか、ネクタイ絞めてる時も十分かっこよかったけど……」


「うん」


「今みたいに、髪も下ろしてて、白のワイシャツ着て。ふだん学校行ってるときみたいな渚と、こんな真夜中にキスするんだって思ったら、なんか……」


「興奮、した?」


「っ、ばっ、ばかっ!!」


「隙あり」


「っ!?んんっ……!」
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