ふたりきりなら、全部、ぜんぶ。


「うわ……弁当、めちゃくちゃうまそう……」


「っ!?」


いつの間に!?

引き止める声を無視して、早足でキッチンに向かった直後。


「はやく食べたい。めちゃめちゃ楽しみ」


「っ、なぎっ……」


ふわっとシトラスの香りが鼻をくすぐったと思ったら。


「あんなにはずかしがってたのに、エプロン、つけてくれたんだ?」

「ううっ……」


後ろから絡みついてきた長い腕に、ぎゅうっと閉じ込められた。


「火、ついてる、から……っ、危ないって……」

「だって、だれかさんが俺のこと1人にするから」


昨日あんなに愛し合ったのに、起きたら1人とか切ないじゃん。


「し、知らないよ……っ」


ううっ……肩に頭をグリグリされるたびに、渚の髪がふわふわ首に当たってくすぐったいし。


「も、もう……っ、」


また体熱くなる……っ。

身をよじって離れようとするけれど、


「……」


ぎゅうっ。

無言のまま、腕にますます力がこもるばかりで。


渚、いったいどうしたの……?


目が覚めてるって思ったのは私の勘違いで、まだ本当に夢の中、とか?

それか私のこと、ぬいぐるみかなにかと勘違いしてる……?


「わ、私、渚の抱き枕じゃないよ」

「は?当たり前だろ。
むぎは俺の婚約者なんだから」


ワントーン下がった低い声。

あ、バッチリ聞こえてたんだ。


ていうか、今不機嫌になる要素あった……?


「じゃ、じゃあなんでそんなに抱きついて……」

「実感してんの」

「え?じっ、実感?」


「うん。だって、大好きな彼女が朝起こしてくれて、エプロンつけて朝ごはんと弁当作ってくれてんだよ?これ以上に幸せなことなんかある?少しくらい幸せ噛み締めさせてよ」

「っ……」


しかもさ……。
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