ふたりきりなら、全部、ぜんぶ。


まだ完全に症状がなくなったわけじゃないけれど、

たしかに昨日の夜までに感じていた息苦しさは少しなくなってて。


「昨日の夜、たくさん手握ったおかげだな。
今みたく、恋人つなぎで」


「っ、わ、私!もう行くから!」


バッと手を振り払って前を向く。

ここが外だって、完全に忘れかけてた……っ!


校舎はすぐ目の前。

水篠と、花柳。

ジロジロジロジロ。


きゃあ♡とか。

わあ♡とか。


もはや人だかりができるほど周りにいっぱいいたのに、なにしてるの、渚……っ。


「むぎ」

「な、に……っ、!?」


なのに。

ふわっと前髪がかきあげられて、落ちてきた優しいそれに、


「ふはっ、顔真っ赤。
ゆるして?そんな怒んないで」


もう、口をパクパクさせるしかできない。


「また放課後な。授業終わったらダッシュで来いよ?」


──────唇にキスは、家に帰ってからめちゃめちゃするから。
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