ふたりきりなら、全部、ぜんぶ。


やわらかい太陽の光の下。

少し日陰になったところに座って、スケッチブックに向かうむぎ。


真剣な表情も、めっちゃかわいいな……。


校舎のすぐそばの楠木をじっと見上げて、時折下を向いてペンを走らせる。


うちの中庭に咲いてる花は校長が熱心に手入れをしてるらしく、花柳の女子たちからも好評で、人気がある。

けど、周りにいろんな花が咲いてるのに、敢えて緑を選ぶ辺り、むぎらしいというかなんというか。


どんなにキレイな花に囲まれていても、愛おしい彼女しか目に入らない俺。


ほんと、ばかみたいにむぎに惚れてる。


「こっち見てくんねーかな……」


むぎが見てるのは俺がいる教室の窓に届くほどの高さ。

そして俺は窓側の席。


心の中で好きだって言い続けたら、気づいてくれるかなーなんて。


好き、好きだよ、大好き。

一昨日より昨日、昨日より今日。

毎日毎日好きが大きくなる。


「森山、こっち見てくんねーかな」


「俺と同じこと考えてる」


「おっ、やっぱ渚も考えてる?
どうしたら気づいてくれっかな」


「俺は心の中で好きだって言い続けてる」


「うっわ!それめっちゃいい!
オレもやろ!」


愛よ伝われ〜!なんてじっと森山を見つめる碧の前で、俺も同じようにむぎを見つめる。


風にゆれるさらさらの髪も。

澄んだその瞳も。

華奢なその体も。

俺にふれられるだけで敏感になるその体質も。

恥ずかしがり屋でツンデレなところも。


ぜんぶが好き。


「……好きだよ」


そうボソッとつぶやいたその瞬間。


「っ!!」

「っ〜!!」


ふっと顔を上げたむぎと、バチッとパズルが組み合わさったみたいに、目があった。
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