ふたりきりなら、全部、ぜんぶ。
【渚side】
吐き気がする。
興奮して祭り状態な教室の端っこで、碧と顔をしかめる俺。
ほんと、なんでこんなやつらと……。
「花柳女子とキャンプなんて、最高すぎじゃね?」
「これを機にたくさんのカワイイ子と仲良くなれたり?」
「彼女できたり?」
「しかもフォークダンスだろ?女子と手、つなぎ放題じゃん。俺、どさくさに紛れて、抱きついたり……っ、!!」
「つま、あっ、あっちで話そうぜ……」
「う、うん」
「渚……机、ミシミシ言ってんだけど」
「あいつら、まじでピーしてきていい?」
「おっ、落ちつけ渚!それはまずい!オレさすがに庇いきれないから!」
ガタッと音を立てて席を立った俺に、さっきのやつらがビクリと肩を震わせる。
この程度で震えるくらいなら、最初からそんなクソみたいなこと言うな。
「ま、渚の気持ちめちゃくちゃ分かるけど。自分の彼女が他の男と、しかも女子に飢えたばかりの男どもとなんて。複雑だろーな」
「おまえは森山と手つなげるし、なんなら距離縮められるチャンスだから最高って思ってんじゃねーの?」
「うっ!まあ、たしかに正直なところ思ってるけど、森山モテるからなぁ……ぜったい他のやつに目ぇつけられる」
そんなの、むぎだってそうだ。
彼氏がいるからとか、婚約者だからとか、関係ない。
男なんて、ほしいと思ったらガンガン責めるし、ガンガン近づく。
もはやケモノだ、ケモノ。
「昨日の今日、なんだけどな……」
「ん?なんて?」
「なんでも」
昨日なにがあっても守るって決めた。
その翌日にこれって……ほんっとどうなってんだよ、うちの学校。
ただでさえ、昨日むぎに男がふれそうになったって事実だけで頭狂いそうだったのに、
手をつないでフォークダンスだと?
おかしいだろ。
女子校と?男子校が?
交流会でキャンプ?このタイミングで?
ふざけんなよ。
フォークダンスをしたからって、まだ症状が出るって決まったわけじゃない。
秘密を知られるって決まったわけじゃない。
『他の男子に知られるかもって思ったら怖くて』
でももし万が一。
万が一のことがあったら……。