ふたりきりなら、全部、ぜんぶ。


「驚かせてごめん……って、あ、この間の……」

「えっ、あっ、」

「セクシービキニの人」


「それは忘れてくださいっ!!」


なんと、そこにいたのは、朝日くん。

じぃっと目を細めて見られたかと思ったら、ひらめいたように言われた。


なんって、最悪な覚えられ方!

しかも、なんか……。


「あの、ち、近くないですか……?」

「あ、思い出した……」


「え?」

「たしか……むぎ、さん?であってる?」

「それ、下の名前です……」


あ、名前思い出そうとしてくれてたから近かったのね……。


でもどうして、下の名前?

朝日くん、やっぱりちょっとズレてる……?


「あとさ、おれ、むぎさんも久遠も同じ指輪してるって気づかなくて。それを鳳に言ったらめちゃくちゃびっくりしてたんだけど、むぎさん、なんか有名な人?」


「そ、それは私にもわかりません……」



前に渚、私に告白してきた人のこと、やけに詳しく聞いてきてたけど、アレは冗談じゃなくて、ほんとうになにか……。


うん……考えるの、やめよう。


「あの、朝日くん……?それでですね、私、むぎって、下の名前で……」


男子に下の名前でさん付けとか、されたことないから、変な感じと言いますか……。


「あー……おれ、人の顔とか名前とか覚えるの苦手で。変わった名前の人なら自分もそうだから覚えられるんだけど」


でも、さすがにアレは、衝撃だった、なんて。


「今すぐ記憶から抹消してください……」

「わかった」


半泣きの私に、素直に目を閉じる朝日くん。


ほんとはずかしい……。

二度とあんなことないようにしよう。


相手のために、そして自分のために。

そう思ったとき、ふと気づいた。


「朝日くん、下の名前なんて言うんですか……?」


まだ聞いてなかったし、さっき、変わった名前とか言ってたよね。


「自由だよ」

「え?」
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