ふたりきりなら、全部、ぜんぶ。
それからトボトボ歩いて屋上へと向かう。
まだ始まってもないイベントの前にあんな……。
「はぁ……」
もう、いいかげん、潮時なのかな。
渚に手伝ってもらっているこの体質を、完全に克服するチャンス。
もうこうなったら、恥を捨てて、渚にもっと……。
「むぎ」
「っ、渚!?」
どうしてここに……!?
うつむいて歩いてたから気づかなかった。
大好きな声にふっと顔をあげたら、人気のない廊下に、寄りかかるようにして渚が立っていた。
「なん、で……先に屋上に、行ったんじゃ……」
ポカンとする私に、渚はふっと目を細めて笑って。
「ん、ちょっとこっち」
優しく手を引かれて、すぐそばの空き教室に引き込まれた。
「わわっ、なぎ、さ……?」
ドアが閉まるのと同時に、ぎゅうっと強く抱きすくめられる。
「どうしたの……?」
「心配だったから」
「え?」
「朝もへたりこんでたし、ずっと心配で。
森山から、むぎが1人で自販機行ったって聞いて、追いかけたかったけど、すれ違いになったら困ると思って。ここにいればぜったいむぎが来るだろう
からって」
「大丈夫?体調悪くない?」
「ん、へいき……」
優しい瞳がのぞきこんでくる。
渚の体温、ドキドキするけど、それ以上に安心する……。
目を閉じれば甘いシトラスの香りが肺いっぱいに流れ込んできて。
渚の癒し効果、バツグンすぎる。
朝日くんのことで少し不安になっていた気持ちがゆっくりゆっくりやわらいでいく。
「渚……」
「うん?」
「大好き……」
「えっ!?」
いつもならはずかしくて言えない言葉。
でも渚の体温とか匂いとか、声とか。
五感で感じる渚に、好きだなぁって、気持ちが唐突にあふれてきて。
伝えずにはいられなかったの。
「ど、どうした?なんかいやなことでもあったか?」
「ううん、なにも。
ただ、ふと渚を好きになってよかったなって……」
胸にぴとっと頬を当てれば、頭の上でぐっとなにかを飲み込む音がした。
「ちょっ、まって……予想外すぎてパニクってる」
「私、なにか変なこと言った?」
「変どころか、世界一うれしい言葉だから。
でもこんなとこで言われると、ちょっと……」
どうしたんだろう、私。
こんな積極的だったっけ?
「キス、したくなる?」
「っ、えっ!?」
「してくれないの?」
「はあ!?」
ぎゅっと抱きついて、渚を見上げる。
珍しい……顔、真っ赤……。