ふたりきりなら、全部、ぜんぶ。
□彼女、彼氏の愛しい天使


「よ、夜這いって……っ、」


覆いかぶさられている下で、必死にもがくけれど。


「っ、何時だと思っ……!」


すりすりと手の甲をなでる指に、声が掠れてしまう。


っ、くすぐったい……っ。


今は親もいるから、普通の声で話さなくていいのが救い。

だって、こんな両手を握られた上に。


「っ、あ……やめ、て」

「っ……なんて声、出してんの」


割って入るように、指で固く結んでいた口を開かれたら。


「っ、ふ……っ」


体が震えて、目元も潤んで。


「っ、やめ……、」

「かわいすぎ」


もう、抵抗なんてできない。


「手握ってるだけなのに、なんでこんなかわいーことになんの。これ、俺限定?」


「っ、ううっ……」


「この間キスしてから、もう1ヶ月もむぎにさわってない。むぎ不足で死ぬかと思った」


「し、死ぬなんて……」


「俺、もう限界。な、キスしたい」


「だめ……、」


「なら抱きしめるだけ」


「だ、め」


「なんで……」


「それ、は……っ」


「俺とキスするのいや?」


「ちがう……」


「じゃあ、なんで」


ぼうっとした月の光に照らされた渚の顔。

今はそれが、痛々しいくらいに歪んで、眉が下がってて。
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