すべてが始まる夜に
シャワーを浴びてスッキリした俺は、スウェットに着替え、髪の毛をある程度乾かしたあと、リビングに戻って全てのカーテンを開けた。

部屋の中が一気に明るくなり、窓の外には気持ちいいほどに雲一つない青空が広がっている。体調不良でなければこんな日はどこかに出掛けたい気分だ。少し残念に思いながらローテーブルの位置を直していると、その下に携帯が置かれているのに気づいた。

白石の携帯か?

ピンクのケースに可愛らしいうさぎがこっちを向いて笑っている。
あいつ、携帯にこんなカバーをつけてたのか。
小学生が、それも低学年の子が好むようなキャラクターに、俺は含み笑いを浮かべてスマホをテーブルの上に置いた。

次にソファーに無造作に掛けてあったスーツのジャケットの上にさっきまで履いていたスーツのパンツを重ねる。一晩中履いて寝ていたうえに大量に汗をかいたこともあり、スーツのパンツは皺だらけだ。近いうちにクリーニングに持っていかないといけないなと考えていると、ピンポーンとインターホンが鳴った。

もう1時間経ったのかとリビングの時計を確認して玄関へ向かいドアを開けると、木製のトレイの上に鍋を2つ乗せた白石が立っていた。

白石からトレイを受け取りながら当然のように「中に入って」と微笑むと、「えっ?」と驚くような顔をされてしまった。

「携帯、忘れてるだろ。テーブルの上に置いてあるぞ」

「携帯? あっ、そっか」

今まで気づいてなかったのか、白石は思い出したように頷くと、おじゃましますと言って靴を脱ぎ始めた。そしてリビングに入ってきた途端、大きな歓声をあげた。
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