すべてが始まる夜に
「うわぁ、10階だとこんなに日当たりいいんだ!」

目を輝かせるように窓の外を見ている。
そんな白石に対して「白石の部屋は日当たり悪いのか?」と聞いてみると、「やっぱり3階なのでここまで日当たりよくありません。それに私の部屋ってこの部屋のキッチンくらいの広さしかないんですよ」と言いながら笑い始めた。

部屋がこのキッチンの大きさだと?

それはいくらなんでも大げさすぎるだろと笑うと、「私の部屋を見たら部長びっくりしますから」と真剣な顔をして言い返してくる。

先週も感じたが、こいつと話していると変に気遣わなくていいからとても楽だ。居心地がいいというのか会話が楽しく感じてしまう。

「そうかそうか。そりゃあキッチンの大きさだとびっくりするだろうな」

「部長、信じてないようですけど、ほんとなんですから!」

まあ、そういうことにしておいてやろう。
ところでこのまま話を続けているとせっかく作ってきてくれたうどんが伸びてしまいそうだ。俺は白石が持ってきた鍋を指さしながら、「この鍋はどっちが俺のだ?」と念のため聞いてみた。

わざわざ2つの鍋に入れて持ってきたということは、別々に作ったということだろう。もしかしたら俺の方には白石の苦手な食材でも入っているのかもしれない。

そう思って確認したのだが、白石は「どっちが俺?」と首を傾げて聞き返してきた。そしてその顔を見た時、俺は先ほどとは少し違う感じに気づいた。
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