すべてが始まる夜に
再びリビングの中がしーんと静まり返る。
俺は食器棚からひとつだけお椀を取り出すと、鍋に入っているうどんを少し移し食べ始めた。

しっかり煮込まれてあるせいか、うどんに出汁がしみてかなり旨い。きのこや白菜、そしてネギに油揚げに半熟の玉子が入っていて身体がかなり温まってきた。

最初は半分だけ食べて残りは夜にでも食べようと思っていたのに、気づいたら全部平らげていた。
ごちそうさまでした、と手を合わせて箸を置く。
テーブルの上には俺が白石用に出したコップと箸がそのまま置いてあった。

あいつも部屋で俺と同じものを食べたのだろうか?
そのコップと箸を見ながらふと考える。

白石にとっては何の意図もないんだろうが、一晩看病してくれて、こうして食事まで作って持って来てくれるとは、俺は上司として嫌われてはないんだろうな──。

今まで女性から好かれることに対して面倒だと思うことが多かったはずなのに、嫌われていないことに少し嬉しく感じる俺がいた。

矛盾もいいところだが、先週あんな情けない姿を見られているせいなのか。
それとも色々な偶然が重なってそう感じるのか。

よくは分からないが、気負うことない自分の姿を彼女が受け入れてくれているからなのかもしれない。

そんなことを考えながら俺は食べ終わった食器と鍋を洗い始めた。
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