すべてが始まる夜に
「心配しなくても福岡には俺も同行する」

「あの、部長も行かれるのですか?」

「俺もちょっと現場を確認したいんだ。それより俺も行くと何か問題があるのか?」

「いっ、いえ、そんなことないです……」

いやいや心配するって。 問題あるって。
う、うそでしょ。
いきなり松永部長と出張って……。

「ほっ、ほんとに私が出張ですか?」

「ああ、実際に現場を見た方がいいと思うからな。俺たちの部署こそ現場を見ておくことが必要だろう。実はこれからそうしようとは思っていたんだ。白石は福岡だが、吉村も今回名古屋の店舗を担当するだろ? 名古屋こそ福岡よりカフェの激戦区だしな。最初は俺も同行するが、そのうち各自で行ってもらおうと思っている」

これはもう確定ってこと?
今の話だとこれから私たちの部署でも出張があるってことだよね?
吉村くんもってことはそういうことだよね?

実際にカフェの予定地を見れるのは嬉しいけど、部長と一緒に出張って……。
あー、葉子が知ったら、また羨ましがられちゃうよ。
それに……。
社内に部長のこと好きな女性がいるんじゃなかった?

打ち合わせ前に交わした若菜ちゃんとの会話を思い出し、部長に気づかれないように小さな溜息を吐く。

「白石、あとで日程を調整して連絡するから」

「は、はい……」

「この場所を見てからもう一度この内容を詰めていこう」

「わかりました」

打ち合わせが終わったのかと思い、開いていた資料を閉じて片づけ始めていると、「ところで……」と部長が言いにくそうに口を開いた。
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