すべてが始まる夜に
「茉里さん、吉村さんは? 吉村さんはどこに行ったんですか?」

「んっ? 吉村くん? 朝から部長と打ち合わせだよ。吉村くんがどうかしたの?」

「どうかしたの?って、そりゃあどうかしますよ……っていうか、それはこっちの話で……」

いつも明るくはきはきと答えてくれる若菜ちゃんが、どういう理由かわからないけれど、もごもごと歯切れが悪い。

「若菜ちゃん、多分吉村くんには部長が今伝えてるはずだよ」

「えっ? 吉村さん部長から直接聞いてるんですか? 茉里さんの出張のこと?」

そこまで驚くようなことじゃないのに、なぜか心配そうな顔をして両手で口元を押さえている。

「違う違う。吉村くんの出張のこと。昨日ね、部長が吉村くんにも名古屋に行ってもらうって言ってたからその話をしてるんじゃないかな。多分、私のことも聞いてると思うけど。これからうちの部署でも出張を入れるって言ってたし、若菜ちゃんもそのうち出張があると思うよ」

「そうですか……。まあ、出張だと部長と2人でも仕方がないか……。そうですよね、仕方ないですよね」

「うん、出張って言われると仕方ないよね。仕事だもんね」

きっと若菜ちゃんも私と同じで部長と一緒に出張に行きたくないんだろうな。

溜息を吐きながらもう一度部長から送られてきたメールを見ると飛行機の出発時間が7時30分と記載されてあった。

うそっ。7時半の飛行機?
7時半ということは何時に起きればいいんだろう。
6時半には空港に到着することを考えると遅くても5時半にはお家を出ないといけない。早起きできるのかと不安になってくる。

若菜ちゃんとそんな会話をした数時間後、葉子が興奮した様子でランチに行こうとやって来た。
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