すべてが始まる夜に
「白石、次に付き合ってみようと思える男ができたときは、こんな本は参考にせずに自分が思った通りに行動してみろ。そしたらきっと上手くいくから。白石が本当に相手の男のことが好きなら、そんな何回目のデートで……って段階を踏まなくてもキスしてみたらいいだろうし、そのままその先へ進んでもいいんだから。それでダメになったらその男とは合わなかったということなんだから。前も言ったけど恋愛に正解も不正解もないんだ。だからこれからはもうこんな本は参考にするな。なっ?」

「そっ、そんなこと言われても……。この年で全く経験なかったら、いざ彼氏と付き合ってそんな雰囲気になっても引かれるかもしれないし、それがすごく怖いんです……」

「お前、ドラマや雑誌の見すぎじゃないのか? そんなことないから。男は好きな女が初めてだと嬉しいもんだよ」

「部長はそう言われますけど、私は本当にそれがコンプレックスというか悩んでるんです。だから部長にあのとき……」

お願いしたのに──と言葉が続かず、視線を落としてしまう。

「あのさ白石、簡単にそんなこと言うけど、いくら顔を知ってるヤツでも実際男がその気になって襲ってきたら怖いと思うぞ。男はそういう奴が多いんだ。だから気軽にそんなこと言うもんじゃない。ちゃんと好きな人とした方がいい」

「そんなことないです。怖くなんかないです。それで一度でも経験できれば自信がつくというか……」

「自信とかそういう問題じゃないだろ」

「部長は今までモテてこられたからそう思うんです」

部長に私の気持ちなんて分かるわけない。
私は真剣に悩んでいるのに。
正しいと思って信じてやってきたことが、こんなことしてたら彼氏なんかいつまでたっても出来やしないって言われて、それだけでも落ち込んでいるのに。

いったい私はいつになったら経験できるんだろう。
たくさん本を読んでいっぱい努力してきたはずなのに、なんだか今までの自分の全てを否定されているみたいだ。
部長に八つ当たりするなんて間違いだとは分かっているけれど、悔しくて唇をキュッと噛む。
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