すべてが始まる夜に
「なぁ、そんなに怖がるなって言ってるだろ」

指で顎を掬い上げられたまま、さらに甘く色っぽい声で視線を逸らすことなく、少しずつ顔を近づける。

ちょっと待って……。
きっ、キスだよね?
キスってこんな風にするもの……なの?

私が今までの数少ない経験の中でしたキスって、「キスしていい?」って聞かれて頷いたら、相手の唇が優しく重なるものだった。
なのに──。

「ほんとにするぞ。いいんだ、な」

綺麗な二重の瞳に見つめられ、条件反射のようにコクンと小さく頷く。

するとゆっくりと部長の顔が近づいてきて唇が一瞬だけ重なった、と思った──。

再び唇が重なると同時に左手で後頭部を固定され、右手が頬に添えられた。
ゆっくりと顔の角度を変えながら唇を確かめるように、触れたり離したりを繰り返す。

初めてのこんな唇を動かされるキスにどうしていいかわからず、部長にされるがまま、身体が硬直してしまった。
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