すべてが始まる夜に
キスよりも
金曜日の夜、部長が帰ってから私はしばらく動くことができなかった。
狭い自分の部屋の中にベッドを背にして座り、天井を眺めながらぼうっとしてしまう。

ここで、今この私の部屋で、部長と、上司の松永部長とキスしてしまったのだ。
それもあんなびっくりするような激しいキスを──。

さっきのは夢……じゃないよね?
本当に私、部長とキス……したんだよね?

事実だとわかっているのに、どこか夢の中の出来事のようで、心の中で確認するように何度も呟いてみる。そしてゆっくりと手を動かし、部長に触れられた唇にそっと指をあててみた。そのまますうっと横に動かしてみる。

ここに触れられたんだ──。

会社では見たことのない部長の『男性』としての顔が、目を瞑っていても目の前にちらついて離れない。

部長ってあんな風にキスするんだ……。
あんな風に男っぽく、そして激しく──。
思い出すだけでまた鼓動が早くなり、頬が熱くなり始めた。
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